スリープダウンの申請者

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「はい。三笘秋生は政治的な意味合いよりも、龍音を信じているのです。所謂、人間の本望でしょうか」 「爺ちゃんは俺が作ったスリープダウンで安らかに眠りたいと願っています。婆ちゃんからも苦しまないように、あの世へ送ってくれと言われました」  龍音は晴明の後に続いて冷静に話したが、VRグラスの下から頬を伝って涙が流れ落ち、美花も笑顔を消失して鼻を啜り、晴明が数分前に美花が発言した『龍音の爺ちゃんが殺人アプリの第一号になるなんて、皮肉な運命ですやん……』を再生し、「晴明の意地悪」と三笘が呟いたが、哲人は声を昂らせて運転席の博美に質問した。 「博美、御見送り庁より、医師へ申請してあるんだろ?」 「ええ、緊急でスリープダウンを使用したいと伝えてあるけど、曽倉大臣と直接話してから判断したいと言われました。この件について、総理は聞いてない事にしてくれと念を押しています。つまり全責任は私たちが負う事になると覚悟してください」  博美は河本総理に今回の体験ツアーはスリープダウンが安全であると世間に紹介するイベント旅行に過ぎないが、余命僅かな病人よりスリープダウンの申請があり、実行する絶好の機会でもあると内密に伝えた。 「面白い。俺たちの力で、最高の運命にして見せようじゃないか?今必要なのはインパクトであり、新しい時代へ向かうイノベーションだからな」  哲人の発言に合わせて晴明がバックミュージックを選曲し、博美がアクセルを踏んでスピードを上げ、龍音と美花も涙を拭ってロック調のリズムに合わせて体を揺らす。
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