死者の道標

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 高齢者の体験ツアーを実施してプロモーションビデオを作成する事が第一の目的ではあるが、三笘秋生のスリープダウンを世間に知らしめる重要なステップと捉え、文子が別行動を取った車を追跡して来るのを想定して、第一号の体験者の現場を偶発的に取材させる計画を企てた。 「スリープダウンはリアルな映像体験で深い眠りに誘う自然死と、肉体的にダメージを与える強制死がある。その境目はグレーゾーンに包まれ、神に導かれたと釈明すれば国民は納得するしかない」 「それはAI晴明が判断するのですか?とにかく、じっちゃんを安らかに眠らせてあげてください」 「まっ、どちらにしても結果は同じ。スリープダウンは願いを叶える魔法のアイテムだよ」  後部席で龍音が助手席の曽倉哲人に深々と頭を下げ、隣りの美花が龍音の肩を叩いて慰めると、哲人はいつもの考えるポーズをして答えた。 「AI晴明はライフ・ナビゲーターであり、死者の道標は自然と浮かび上がると僕は思っている。美花さん的な言い方をすれば、地獄の門が開くのかもしれないけど、スリープダウンが死の世界を解き明かす日が来る事を期待しましょう。霊エネルギーが存在し……」  言い終える前にハンドルを握る博美が哲人を横目で睨み、「賛成したのを後悔しているわ」と左手でおでこを押さえて嘆いたが、プランニングした強行策は目前に迫り、ワゴン車は数分後に山梨県笛吹市芦川町にある三笘家に到着した。
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