血の滴るメインディッシュ

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 先に三笘家に到着した曽倉哲人と沢木博美は玄関先で待ち受けていた医師と看護師に挨拶して、庭の見えるテラス席でスリープダウンの手順を説明し、申請書を手にした担当医師の山中康平は再度目を通して疑問を投げかける。 「曽倉大臣。薬物投与も、外圧刺激もせず、単に3D映像を患者に観せて、自分の意志で生を終えるなんて可能なのでしょうか?もし、それが本当なら、曽倉大臣の提案を拒否する必要はありませんが……」  山中康平は笛吹市立病院の中堅医師で、曽倉哲人の研究レポートを読んだ事もあり、スリープダウンが人体に与える方法について興味があった。 「山中医師、こう考えてみてはいかがでしょうか?もし、何も起きなければ私たちは夢のような上映会を催したに過ぎない。そしてもしスリープダウンが成功すれば、貴方は奇跡の1ページ目に名を残した事になる」  哲人は何事も起こらない訳がないと確信していたが、リスクを嫌う医師を安心させるには的確な答えであり、後者の魅惑的な言葉が山中にペンを取らせた。 「わかりました。但し、ベッドサイドモニターで観察させてください」  沢木博美より、「プレイヤーの体調情報はAI管理され、各種データは正確に表示されます」と言われたが、山中は病院からベッドサイドモニターを寝室に運び入れ、ECG(心電図)、NIBP(非観血的血圧)、HR(脈拍)、SpO2(経皮的酸素飽和度)、RR(呼吸数) を観察し、不審な点があれば止めるつもりだった。 「構いませんよ。ねっ、曽倉大臣。AI晴明のデータが正確であり、医学的にもスリープダウンの素晴らしさが証明されますわ」 「僕はシンプルなのが好きなんだけどなー。山中医師、血がドバッと出ても驚かないでくださいよ」  哲人は山中がスリープダウン申請書にサインするのを見ながら、『目立ちたがり屋め』と心の中で呟いて、びくっと顔を上げた山中に微笑みかけた。
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