1. 学園の訓練場◇嫁視点

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1. 学園の訓練場◇嫁視点

『大好きな年上婚約者に嫌われました』 「早く、早く! 急がないと日が昇っちゃう!」 「ニコラ、待ってよ。ニコラ!」  友だちの腕を引っぱって、学園内の訓練場へと追いたてる。学園のある王都の冬は寒さは厳しくないけれど、日は短い。今は、朝というより夜明け前。  ぼくと同性婚の嫁仲間のマリアが慌てているのは、授業前の自主鍛錬に参加するためじゃない。目的は、鍛錬中の婚約者たちの勇姿を眺めること。  篝火と朝焼けに照らされた土敷きの訓練場に、模擬剣を打ち合う金属の音。奥の方にアンドレがいる。たくさんの生徒に打ち掛かられ、それを飄々と受け流している。  この場で一番かっこいいのは、やっぱりぼくの年上の婚約者だ。アンドレは近衛竜騎士団に所属し、王族の護衛官を務めている。堂々とした肉厚の体。浅黒い肌と無造作なハーフアップの黒髪が、白基調の制服にキリリと映えている。  今日の護衛割当は、まだ学園生の王太子殿下。このお役目の時だけ、アンドレは師範代わりに生徒たちに実技指導する。ぼくは熟練の剣さばきを覗き見できる。 「わあ! 思っていたより実践的なんだね!」  隣で目を丸くしている友だちのマリア。彼の婚約者は、アンドレに倒されても果敢に立ち上がり挑んでいる先輩だ。  最近マリアは、政略以外何ものでもなかった先輩と晴れて結ばれた。ぶっちゃけて言うと、結婚前に先輩に抱いてもらったみたい。  儀礼的だった男同士の距離感が、急に恋人の近さになった。マリアが初めて早朝応援に行きたいと言い出して、今ぼくの目の前で、鍛錬終わりの婚約者とイチャイチャし始めて……ほんと、羨ましい。 「アンドレ、お疲れさま」 「ああ」 「汗、拭いて」 「いや」  差し出したハンカチが宙に浮く。 「サンドイッチ、持ってきたよ。お肉と卵の。朝食にどうかなって」 「ありがとう」  燻製肉たっぷりで、齧るととろんと弾ける半熟卵のサンドイッチは、アンドレの大好物だった。出会った頃は、ぼくが頑張って一つ完食する間に、十切れペロリ。  あの頃は良かったな。またお子ちゃまのぼくに、アンドレは優しかった。ぼくの年齢に合わせて、伯爵家の庭園中を追いかけっこしたり、肩車してくれたり。幸せな記憶。  強くて、大きくて、気取らなくて、遠慮なくぼくを叱ってもくれた。出会った時から大人の男。ぼくの初恋の人。  今は、『ああ』『いや』『ありがとう』三つでしか会話してくれない。  アンドレは、婚約者のぼくを嫌いになっちゃったから……
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