4. 寮の玄関ホール◆婿視点

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4. 寮の玄関ホール◆婿視点

 ヤバイ。ニコラ様が超絶可愛い。オレの目の前で、クルッと小さな騎士が回る。  なんでだか、ニコラ様、が、近衛竜騎士、の、制服、を、着てる。なぜだ。  いつもの護衛ん時と比べて実用性は低いが、正装用の制服はキラキラがたくさん付いてる。生地もいい。似合う。なんだこの可愛い生き物は! 「その……どう、かな?」  ヤバイ。目が離せねー。  よく見りゃ、胸の下辺りの星章は黒い石がはまったブローチ。帯に縫いとられた紋章は、団の記章じゃなく伯爵家のヤツだ。  本物の近衛竜騎士団は、もちろんデカくてむさ苦しい野郎どもだけ。こんなちびっこい騎士なんて、いやしない。お人形さんか! 「ああ」  思わず、マジで思わず、昔みたいにニコラ様を腕ん中にスッポリ納める。  まだ小せーな。でも、大っきくなった。  出会ったのは、ニコラ様が七つの時分。年イチ開催の武闘会を、オレは瞬殺で勝ち上がってた。それをカッコイイって、ニコラ様が見初めたってわけ。  確かにオレは強かった。だが、ほんとはそんなカッコイイもんじゃねー。  オレの母親は男爵で、貧乏領主。そんな家が、剣の実力に見合う人事枠を持つはずねーだろ。王族を頂点として、家の力で役職が決まる身分社会だ。王都の警備官っつー、強盗から酔っ払いまで取り締まるお役目に就いて、オレはくすぶってた。  そのイライラを大会で発散してただけだ。カッコ悪。 『強い!』『スゴイ』『アンドレ、大好き』  天使みたいな子がキラキラした目で憧れてくれた。嬉しくなっちまうのが道理だろ。 『アンドレと結婚する!』  肩車の耳元で叫ばれた時には、笑って流したけどな。溺愛する愛息子のご要望を叶えようと、まさか伯爵家が貧乏男爵家に婚姻を申し込むとはね。ビックリだ。  ギリギリ貴族籍で、荒れて女癖が悪かったオレ。いい歳こいてまともな縁談は来ず、結婚のアテはなかった。警備官は市井の女どもにはモテモテなんだがなー。まー自業自得。  オレとオレに繋がるであろう子孫の食扶持を、うちの貧乏男爵家は伯爵家に丸投げできる。  直系の赤ん坊ができねー同性婚は、貴族層の人数調整になるから奨励されてるぐらいで、抵抗ナシ。オレは伯爵家の人脈に組み込まれ、いい職にありつけそう。  何より、無邪気にオレに懐くニコラ様を側で見守りたくなった。  そんなこんなで、あっさりと年の差政略結婚の約束が相成った。 「似合わない?」 「いや」 「そっか……」  オレとお揃いになりたいんだろうな。健気で愛らしい。そっけないオレの受け答えに、凹むちび騎士様。  王宮内では、王家直属の近衛騎士のみがその制服の着用時だけ、武器の携帯を許可されてる。本日のまねっこ騎士は、当然模擬剣すらダメだ。  他が着れなくてニコラ様には申し訳ねーが、オレは剣がねーと落ち着かねーんだよ。それに、社交時に着るもんが決まってるのは、我が貧乏男爵家にとっちゃーありがたい。  伯爵にもオレにも唯一誤算は、ニコラ様が本気でオレに惚れちまったことだった。  年の離れた兄貴みたいに、親みたいに、ニコラ様の幸せを守る。体には手を出さず白い結婚をして、いずれニコラ様が本当に愛した少女との行く末を後押しする。  愛息子を手元に置いときたい伯爵がオレに望んだことであり、オレも長年そのつもりだった。  抱えてた腰を離し、オレの天使から強引に目線を外す。無言でエスコートの腕を差し出した。  ニコラ様の恋に、オレは応えちゃならねー。それが、オレの婚約者の真っ当な幸せに繋がるんだ。
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