5. パーティ会場◆婿視点

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5. パーティ会場◆婿視点

 小さな騎士を横にぶら下げて、離宮の広間へ案内される。  さり気なく全体に目を行き渡らせ、警備の立ち位置と招待客の顔を確認。丸っと暗記しといたリストと、頭ん中で照合する。身分の低いのから入室させられっから、まだ半分程度。  王宮で何かあるわけねーだろうが、職業病だ。なんてったって王都警備官歴十年、近衛護衛官歴十年のベテランだ。 「あ、学園の友だちだ。先にちょっとだけ、衣装見せに行っていい?」 「ああ」  毎年姫様は同じぐらいの年頃の子らを招待する。ちまちまして、皆可愛い。エスコートも大体若い世代だから、オレは浮いてる。ガキの中の大人。若者の中のオッサン。  オレはニコラ様より必ず先に死ぬ。いくら鍛えてようと、な。自然の摂理ってもんだろ。  ニコラ様は、この客ん中から愛する少女を見つけるべきだ。第二夫人以下は大した権利は持てねーが、その分自由にお相手を選べる。政略じゃなくてさ。平民だって構わねーんだ。  恋して、結ばれて、子ども作って、幸せな家族を作る。ニコラ様激似の天使みたいな曾孫に看取られて、幸せに死ぬんだよ。  オレの胸がチクリとすんのは、この際どーでもいい。 「今度は私にドレスを贈らせてくれ」 「いや、私が」 「だめよ、これ以上は申し訳ないわ」  一際甲高い声が会場に響いた。皆の視線が一点に集まる。オッフェーリア男爵令嬢だ。そろそろ成人するテオ王太子殿下の恋人。んでもって、側妃候補。  オレは無意識で帯剣に触れてた。  華奢でちっこい背丈、無邪気な笑顔で庇護欲をそそる可憐なご令嬢。だが、彼女は先進派の顔だ。平民を味方につけようと煽ってる、例の政争の旗印。  とはいえ、オッフェーリア嬢本人は立ち場を自覚してねーな、アレは。表立ってる父親の男爵も、傀儡だろ。黒幕はもっと上。 「みなさまのお気持ちだけで十分ですわ。わたくしはとっても幸せ者ね!」  パッと花開くような満面の笑みを浮かべ、小首を傾げる。 「さすがテオ様の妃候補であらせられる」  甘ったるい砂糖菓子みてーな声に追従し、お坊ちゃんたちの称賛が一斉に湧き上がる。ご当人と取り巻きの先進野郎どもは、正妃に上りつめる気マンマンだな。  ともかく、自由だー平等だーって、王太子殿下以外の男どもとも大っぴらに乳繰り合うのは、勘弁してくれ。未成年のデカいナマ乳を見せられても、護衛官たちは目のやり場に困る。  そっと柄から手を離す。  さて、本日は相手の大人は少ねーが、そろそろ役目を果たそーかね。騎士じゃなくて、中立派伯爵家の入婿予定の人間として、挨拶回りっつー情報収集。  楽しげに友人と戯れてるニコラ様に目線で合図をやって、ちと離れる。  あからさまにならねー程度に近づき、相手の声掛けを待つ。まだ結婚前だから、一介の貧乏男爵家ご令息のしがないオレ。ギリギリ貴族の方から話しかけるのは、フツーならマナー違反だからな。フツーなら。 「……ご機嫌よう。クレマン卿ではございませんこと?」 「お初にお目に掛かります。改めまして、私は近衛竜騎士団で護衛官を務めております、アンドレ=クレマンと申します」  オレは微笑んで騎士礼を取る。  釣れたのは、年かさで妖艶な子爵。婚約者のいねー幼い息子かなんかのパートナーとして、参加してるんだろう。  子爵は先進派と対立派閥の……えーっと特に名称がねーや。フツー大好き派? ちげーな、既得権益派? そうだ、伝統派のオネーサマだ。 「お噂はかねがね伺っておりましたわ。是非一度、お話したいと思っておりましたの」  うふふと笑う口元が扇子に隠れる。 「こちらこそ、光栄です」  やれやれ、脳筋なりになんとか有意な情報を取ってけそうだ。
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