6. ぼくの部屋◇嫁視点

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6. ぼくの部屋◇嫁視点

「た、の、し、かったぁー」  寮のふっかふかのベッドに、ぽふんと倒れ込む。今日のパーティのために実家から呼び寄せた侍女たちは、やっと引き上げた。お風呂上がりのぼくは一人きり。ギューンと手足を伸ばす。夜気に冷えたシーツが、火照った肌に気持ちいい。  レア姫様のご生誕パーティは、年齢が上がった今も夜会ではなくて、冬の日が暮れる頃にお開きになる。  久しぶりに、アンドレのちゃんとした声を聞いた。左斜め上からぼくの頭に降り注ぐ、軽い声色。低く控えめな笑い声。  ぼくに向けられた言葉じゃないけれど、普段よりかしこまったそれは、知的な艶を帯びていた。いつもこっそり盗み見している護衛姿とのギャップが、たまらない。ぼくの婚約者は、ほんとかっこいい!  竜騎士風衣装も好評だった。偽物だけれど、お揃い。初めてのお揃い。  ぼくは腕力は全然だめ。傷がつく可能性のある騎士になるのは家族みんな反対だろうから、本物のお揃いにはなれない。社交の場では同じ趣向の装いは何回もできないし、最後の機会だったかも。 『まあ、ニコラちゃんが凛々しいわ』 『にいさまに、騎士の誓いを立ててくれないかな?』 『上手く仕立てられてる! 本物と並んでも見分けがつか……なくはないか。でもイケてる!』  家族や友だちにたくさん褒められた。会場の話題を結構かっさらったみたい。流行って欲しいな、騎士服デザイン。そうしたら、もう一度お揃いコーデしたい!  主役のレア姫様にも、しっかり褒められた。 『小さな騎士様は、クレマン卿と仲良しね。羨ましいわ』  そうおっしゃる姫殿下こそ、夫君の次期公爵閣下と微笑みあって、ずっと寄り添って応対していて…… 「……羨ましいのは、こっち」  ひとつ、ため息。ちょっと冷えてきた。もぞもぞと毛布に包まる 「綺麗な女性だったな……」  広間で少し離れていた間、アンドレはうーんと年上の方と仲睦まじげにお話していた。母と同じ年代で、可愛らしい母とは違うタイプの色っぽい美人さん。扇に隠れて耳打ちしたりしていて。  ああいう豊満であちこちぼーんな女性が、アンドレの好みなのかもしれない。  でも。  でも、学園を卒業したら結婚式を挙げる。ずっと一緒。いつか、ぼくを好きになってくれるよね?  ぼくだって、成長したらセクシーになるかもしれない。いや、なる!  年齢はアンドレに一生追いつかないけれど、ぼくが百才ならアンドレは百二十才。長い結婚生活、誤差だ誤差! えいおーっと毛布から拳だけ突き上げる。  でもやっぱり、お爺ちゃんになる前に、抱いてもらいたい。本音は、今すぐにでも。  手袋越しの大きな手を想い返す。ダンスの時、腰に添えられた手。しっかりと握った手。硬くて力強く支えていたのに、ふんわりと優しくて……  いいかな? 今夜ぐらいは、ぼく、シてもいい?
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