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第九十一話・ネクストドリーム
どうしても希未子は鹿能を祖父が目指した荒野へ導こうとする。そこには曾祖母が息子総一に託したあの日の衝撃的出来事があの世まで尾を惹き、それを総一の孫娘がしっかりと受け止めているのだろうか。曼殊院で希未子さんに会った時はまだ会長は元気にされていた。その直ぐ後の死で、彼女との途轍もない縁が結ばれた。それは偶然か必然かその結論が迫っているような気がして成らない。
こうした鹿能の深刻な不安をよそに、希未子は何かを暗示するように、また疲れて喉が渇いたと言い出した。さっきは喫茶店で気分転換を図ってまたかと思うと、今度は表のスタンド看板を見ないと判りにくい目立たない小さなスナックに「此処はおじいちゃんが良く行ってたお店なの」と言って入った。
中はこれまたさっきの喫茶店と争うように、アンティークらしい上質で重圧のテーブルと椅子があり、違いはカウンター席があった。勿論部屋はまだ陽が高くて誰もいない。奥のカウンターには五つの席と、そこ通じる両側にそれぞれ二つずつ四つの小さなテーブル席が有った。
年配のバーテンダーがメニューを差し出した。飲み物を見るとジュース類に混じってお酒のメニューもある。喫茶店雰囲気だけどスナックなんだ。そう思うと珍しく陽の高い内に彼女はメニューに載っていない洋酒のカクテルを頼んだから更に驚いた。そこに描かれた物は、鹿能には馴染みのないものばかりなのに、希未子は躊躇わずにメニューに載ってないカクテルを頼んでいる。
「何を注文したんだ」
とメニューを持って引き上げるバーテンダーの後を追うように訊ねた。
「ネクストドリーム」
「何なの? それって」
「此処のバーテンダーは祖父とは顔馴染みでおじいちゃんが夢を語るとそれに合わせて試行錯誤して作ってくれたオリジナルカクテルだからメニューにはまだ載せてないようね。ジンに甘酸っぱいピーチのロングカクテルなの。二つ頼んだ」
好みも聞かずに頼むから鹿能は、エッ、と驚いてしまった。
「よく飲むの?」
彼女はまさかと謂う顔をした。
「おじいちゃんと一度だけ来た。それから二度目は、リビングで千鶴さんとヒソヒソ話をしている処へ仕事が終わって帰りがけの紀子さんに誘われたの」
「どうしてまた?」
「あの時は片瀬が帰国する前だった 何も起こらないように苦労しているのはあたしだけかしらと思って千鶴さんから向こうでの片瀬の様子を窺っていると紀子さんが落ち着けて静かに飲めるところがあると言われてツイ乗っちゃったの」
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