正月

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正月

年の始めのためしとて 私は冷たい人間だ 誰に対しても 平静を装い穏やかに話す事はできるが その命に関わる事に対しては 実に不粋である 慰める事もできずに ただその恐ろしさから逃げ出すのが関の山 それは成人としては とても幼稚で浅はかで愚かで あらゆるものが欠落している証 私の心は冷たい薔薇の棘に縛られ (くび)から下には悪寒が走り (のど)が締め付けられ 頭は熱に膨らむ "ぬけられます" とだけ木札に表記(しる)された 町屋造りの建物と建物の間 細くて長い長い長い一直線の路地に迷い込む 石畳とそれを囲む黒い砂利は濡れている もうすぐ落ちそうな太陽が 少しずつ自分の熱を闇に仕舞い込みながら こちらを見て嘲笑(わら)う 町屋造りの格子窓から少しずつ漏れる 山吹色の(あかり)はゆらゆら揺れる 私の肉体の正線は 百会(ひゃくえ)(ツボ)から空までまっすぐ届く 空が平面なら 天に神がいて人を操りもしようが 私の正線はただ宇宙(そら)(ほう)り出された(まま)
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