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「…あ、ところでさ、颯斗」
「何?」
「俺、しばらく朝一緒に登校できないかも」
「……なんで?」
颯斗が怪訝そうな顔を向ける。うーん、多分これも演技なはずなのにこういう表情してると普通なんだよなぁ。
「来週当番あってさ、日直の。早く行かなきゃいけないんだ」
懐かしいよな、この日直制度。俺は帰りの会とかで司会するのが一番嫌だったわ。
腕を組んで懐かしんでいると、颯斗が珍しく少し不機嫌そうな顔をして言った。
「いいよ、時間合わせるから。家出る時間教えて」
え。
「え……い、いやー、それはちょっと…颯斗に悪いし」
「気にしないで、したくてするんだし。それとも、要は二人で登校するのが嫌なの?」
ぐっふ……上目遣い……俺の心にクリティカルヒット!!!
「いや、いやいや!!んなわけないだろ!?颯斗は俺の中で一番、マイベストフレンド!!もうそれはずっと一緒に登校したいに決まってるじゃん!!!」
早口で捲し立てれば、颯斗は不思議そうな顔をした後満足げに笑った。え、なにかわい。
「そうだよね、要は僕が大好きだもんね」
「そりゃあもう!!!好きじゃなかったらこんなに構わないし!!颯斗が運命の相手に出会うまでは俺は颯斗にべったりだから!!!」
「……運命の相手?」
あ、やべ。
勢い余って口を滑らせてしまった。でも大事だよね、恋人できても俺がくっついてたら迷惑だし邪魔だし!!今宣言した方がいいかも。
推しカプの壁になるという野望を抱く俺は、怪訝そうな顔をする颯斗ににこやかに喋った。
「そうそう。颯斗にはいつか運命の人が出来て、その人と素敵な恋をするんだよ。それまで俺は颯斗を独り占め」
「………運命の人…要はそんなの信じてるの?」
「え、い、いやぁまあ……なんか良くない?そういうの」
い、言えない……君は高一で転校生の男の子に運命的な恋をしてその後色々あって校内の人間を殺しまくる殺人鬼になるんだよ、だなんて。
「じゃあ、要にもあるの?その運命の出会いってやつ」
「えっ俺?」
まさかのこちら側へ矛先が向いたことに驚きながら俺は悩む。いや、俺は颯斗を人間にするまでは恋愛しないし…というかしたくても不安で出来ないし。だけど、ここで俺の答えたことが颯斗の価値観とか恋愛観を形成するかもしれないな……よし、ここは一般論を答えよう。
「んーまぁ、みんなにあるんじゃないかな。みんな平等に等しく、ビビって来る相手はいると思うよ。俺は今んところないし、ビビって来るのが女子か男子かはわからんけど」
多分俺ノンケだから女子だろうけど。可愛い女の子と恋愛しながら推しカプを愛でる。うん、良い。
「………そっか」
え、あるぇ?なんで颯斗君ちょっと不機嫌そうなのカナー?
もしかしてあれか?運命なんてそんな非科学的なもん当てにしてんじゃねーよ的な?
俺は信じんぞということなの?
何でか知らないが、颯斗はその後もずっと少し拗ねていた。帰り道もなんか無言だし不安。なーんか最近の颯斗、やっぱり変なんだよなぁ。
俺こんなに頑張ってるのに……原作の強制力怖い。
話を変えよ……えーと、うーん……あ!
「颯斗、今日あの公園で寄り道____え?」
目に入った公園を指差しながら寄り道を提案しようとすると、俺の視界にあり得ないものが飛び込んできた。目を擦る。
……んん?
公園内に、俺と颯斗と同じくらいの小学生がいた。5人、集まってガヤガヤしている。制服が同じだから、同じ学校の子達だろう。
いや、それは別に不思議なことではない。
重要なのは、その5人に囲まれている小学生だ。黒いランドセルを背負って尻餅をついている男の子。どろんこで、今にも泣きそうなのを我慢して男の子達を睨んでいる。
彼は、誰がどう見てもいじめられていた。
しかもあれはただのエキストラじゃない。あの顔は、『破滅の一途』に登場するキャラクターと同じだ。
そして俺、成瀬要と彼には、奇しくも共通点がある。
う、うわー……マジか。
それは、俺も彼も、死にキャラであるということだった。
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