斑雪の中で死ぬ

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「はぁ……息、白っ」 「もう冬だからね…」 白い息を吐きながら颯斗と学校までゆっくり歩く。棗とは先ほど別れたばかりで、今はいつも通り颯斗と俺の二人きり。今日は大事な日だから、棗には迎えに行けないことをはっきりと伝えたし(超絶不満そうで何回も可愛くおねだりしてきたが心を鬼にしてダメと言った)、部活も休むことにしたから準備は万端。 後は、颯斗が生徒会の仕事終わらせて帰るまで待っとけば、大丈夫。 やれる、俺ならやれるぞ……だからこのブルブルしてんのは武者震いであって、断じてビビってるんじゃないんだからね!!!! 必死になって心で言い訳していると、颯斗がじ、と俺の方を見て静かに言った。 「……要、何かあったの?」 心臓がどきりと跳ねる。けれど、なんとか何食わぬ顔で首を傾げてみせた。 「ん?何かって?」 「いつもと様子が違うから、気になったんだけど」 二つの黒真珠みたいな瞳が俺の心を見透かすみたいにこちらを覗く。うそ、俺そんなに分かりやすい!?そういや、さっきも棗に心配されたし……態度に出やすいのか俺。 「態度というより、表情に出てることが多いかな」 「………声に出てた??」 「ううん、これは全部表情から読み取った」 いやマジかよ。 もはや相槌すら諦めて絶句する俺を颯斗はにこにこして見守る。 ちょ、本当に知らない、気をつけなきゃマジで…俺ってポーカーフェイス下手だったんだ……自分では出来てるとか思ってただけショック…むしろポーカー上手いとか思ってたまであるんだけど。は、はっず!!! 「思ってること顔に出すとか子供じゃ、っくし!!」 うい、くしゃみ出た。ギリギリで察知して抑えたけど、吸われた外気が鼻腔を冷やして痛い。さむ、手袋とかすれば良かった。家出てから気づいたから、もういいやって思ってなんも防寒してねぇや…なんて浅はかなんだ、俺。 「……っへ?」 なんて軽く嘆いていたら、突然俺の首元にふわりと温もりが降ってきた。 なんだなんだと視線を落とすと、タータンチェックのマフラーが俺の首に巻き巻きされていた。思わず持ち主に目をやると、目を細められる。 「それ、巻いてて。風邪引いたら大変だから」 「え、え、でもこれ、颯斗の……」 「僕はそんなに寒くないから。元々それは母さんが持たせてくれたものだから、僕はなくても平気だよ」 言いながら颯斗は俺の首元のマフラーを正しく整えてくれた。お、お、推しのマフラーが俺の首に…!!さっきまで颯斗がつけていたから颯斗の体温で温もりがあってほっとする。待ってくれ、これは一体どういうご褒美なんですか? しかも何これ、めちゃくちゃいい匂いする。僅かに甘くて、爽やかな柑橘系の匂い。しかも自然なタイプの柔軟剤か洗剤の香り。やっば、すげぇ好き……。 いい匂い、と変態ばりにマフラーにすんすん鼻をうずめると、颯斗が真顔になった。 「……要、それは、だめだよ」 ごめんなさい。本当にごめん。 ぎゅう、と拳を握りしめる颯斗に流れるように謝罪する。そりゃあんな変態行動されたくないよな。俺でも戸惑うもん。ただ言い訳させてくれ、あれは、完全に無意識だったの…樹液に群がるカブトムシの状態だったんだよ。いい匂いすぎて。 でもそれを言うといよいよ変態なのでやめた。ごめんな颯斗、こんなやばい年上で…。 ちなみにマフラーはちゃんと教室着く前に返した。マフラー返しただけで女子に騒がれたよ、こわい。俺を妄想の材料にしないで…どうしてもするならせめて当て馬にしてぇ…。
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