第4章 セレ

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しかし約束は約束だ。 セレはウォールと全く同じ音、同じ調子で呪文を唱えた。 ズン! 空間に振動が走った。 「んっ?!」 ランスが驚愕の声を上げた。 ミシッ! 壁や天井にいくつもの亀裂が生じた。ピキピキと広がって行く。 「崩れる!」 セレ達の周囲を残して石壁がみるみる砕けていく。大きな圧力が加わっているのだ。 これはセレがかつて使った魔法… ピアリの父親ローエンを圧死させそうになった魔法だ。 セレが魔法石フィズを宿して7年間の眠りから目覚めた時。師であるヴァシュロークから与えられた試練の一つであり、精神的な強さを試されたのだ。 セレは本当にピアリの父親を殺してしまったと思い、(たと)え様の無い罪悪感と絶望感に打ちひしがれた。 記憶を封じられてもなお、その感覚が残っているのだ。 セレの仮面のような表情にウォールは気付いた。 「どうした?死人みたいな顔になってるぞ。」 「…なんだかとても嫌な気分なんだ。なんだろう?」 声にも力が無かった。 「圧壊(ポーダピブレ)に相当イヤな思い出があるって事か?…だからかな。お前にしては効果も範囲も小さい。塔の大半が崩壊すると思ったんだが。」 セレの魔法が全開だとしても、圧壊(ポーダピブレ)の効力の範囲はここから最上階までは及ばない。
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