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『気分が優れぬ』と言ったが、これはタリヤが感じているものを言い表わすのにふさわしい言葉ではない。
『脳の働きが優れぬ』と言う方が当てはまる。
王が色々と忘れる事が多いのも気にかかる。
…昨日も部族会議で各代表者が話した事を思い出せなくなっていらっしゃった…
書記が気を利かせ議事の要点をまとめた書類を指し出したから騒ぎにもならなかったが、得体の知れぬ危機感が心をよぎる。
「さて、少し外に出るか。」
ヤールは立ち上がった。
「はい。」
返事をしたタリヤは、今まで王が座っていたソファーとテーブルを見た。
カップには飲み残された紅茶。その周りには数種類の焼き菓子がのった皿があった。
テーブルの上にはポロポロと焼き菓子のかけらが散らばっていた。
…食べこぼし?!
タリヤは思わずヤールの顔を見てしまった。
…こんな事は今まで無かった…
「陛下、本当に何ともないですか?」
「大丈夫だと言っている。」
しつこいな、と言わんばかりの表情になった。
「失礼致しました。」
タリヤは謝ったが…
…ローエンに来てもらおう…
医者に診せようと思った。
ローエンとは、かつて名医と言われたヴァシュロークの弟子だ。そしてピアリの父親だ。
タリヤはその日のうちに使いを送る事にした。
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