第5章 異変

5/8
前へ
/124ページ
次へ
結局トアンはタリヤの『密命』を受けた形になった。 薬草の採取と図書館での調べ物を終えると、早速ローエンのもとへと戻った。 トアンは少し風の魔法が使える。馬に風の魔法をかけると通常の早馬よりも数倍の速度が出る。 その速度で1時間弱、王宮から南西に走ったところにローエンの家がある。 目印は大きな合歓(ねむ)の木。 10メートルほどの高さがある。枝の広がりはその3倍になる。他ではまず見ない大木だ。ロストーク王国の祖ファーダの時代から生きているとも言われる。ヴァシュロークも大切にしていたと聞く。ロストークの歴代の名だたる魔法使いも、やはりこの大樹に何かを感じていたらしい。伝記に時折、この合歓の記述がある。 トアンはそこまで植物の魔力に敏感ではないが、この合歓の木には敬虔(けいけん)さを感じ、そばを通るたびに敬礼する。 今日も合歓の木を見上げながら、右手を胸に当てる。 その幹の向こう側に丸太小屋が見えた。そこにローエンが住んでいる。 生前ヴァシュロークが入り浸っていた場所でもある。彼はこの場所が気に入っていた。自分の邸から必要な機材や資料を持ち込んで、勝手に魔法医学の研究室にしていた。 もっとも、最初はローエンがヴァシュロークの技術と人柄に惚れ込んで助手をやっていたのだ。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加