第5章 異変

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「最近、どうもボーっとしたり…会話や行動がおかしいと言うのです。手足や口にしびれ感もあると。」 「高齢者か?それとも脳の病気かね?」 「彼はまだ20代です。脳の方は私も疑いましたが多分違います。」 『親戚の者』に置き換えて王の様子を話す。 「何をもって脳ではないと思うんだい?」 「独特の発疹です。首のリンパ腺辺りに赤紫色の発疹があるそうです。」 「…それが何かキミは知っているのかね?」 ローエンは探るようにトアンに尋ねた。 「はい。私の育った村では時々見られる症状です。」 トアンはレダリアという国の南東部の辺境の村の出身だ。そこでは雨季には大地が沼のようになり、乾季には土埃が舞う。そんな悪条件の中で人々は生きている。 村の中央を流れるスティラテ『淀み』という川がある。村人の生活を支える大切な水源だが、有り難くないものももたらす。 川の浅瀬に棲む虫だ。川辺の湿地帯に生える植物に卵を産みつける。 その植物を人間や動物が食べると、体内で卵が孵化し育つ。 寄生虫なのだ。 この虫は人間や動物の脳を好む。脳を食い荒らし、やがて宿主の行動を支配する。最後には水中に誘い込み、そこで宿主が絶命すれば、自身はまた水中に戻り繁殖する。
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