第3章 父と息子

20/28
前へ
/124ページ
次へ
「仕方あるまい。」 アーリンは無表情のまま部屋を移った。 アーリンが居なくなると、それまで静かだった両生類人達が話し出した。 「もう奴はアリスドリナには行かないのか?今度こそ息の音を止めてくれる。」 「ああ、あの毒トカゲ野郎も倒したし、今度は確実に仕留められる。」 「やめておけ。奴は風の魔法も使えるんだ。風の魔法使いは耳がいい。部屋の一つぐらい隔てたって丸聞こえだぞ。」 制したのはテムだ。 「確かにそうだけど、ここは魔法医の診療所だよ。医者には守秘義務があるんだ。防音は完璧だよ。」 システィンが言った。 「何だって!」 セレが顔色を変えた。 …完全防音!向こうの音もこちらに聞こえないって事だ!… セレはアーリンがいる筈の部屋のドアを開けた。 「しまった!」 アーリンの姿は無かった。 「窓から出たな。」 セレも風の魔法使いだ。普通ならほんの僅かな音でも聞き逃す事は無い。人間どころかネコの忍び足だって聞き取れる。 この建物内ぐらいならアーリンの動きは直接見なくても音で分かる。だからこそ単独で別の部屋へ移動するのを止めなかったのだ。 …行き先はアリスドリナだ!… セレも窓から飛び出した。 「奴が居ないって?!」 「追いかけよう!」 両生類人達も行こうとした。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加