第3章 父と息子

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数日前、アーリンはこの短剣をリーニエに預けていた。 『記憶封じの剣』 その名の通り、この剣で切られた者は記憶が心の奥底に封じ込められ、記憶喪失と同じ状態になってしまう。 セレは旅に出て間もない頃、ある情報屋がこれを持っているのを見た。彼はアーリンと同じくセレを我が物にしようと計った。だが、さほどの奸物(かんぶつ)ではなくセレに返り討ちにあった。 アーリンはリーニエを使ってセレの記憶を消し、アーリンの都合の良い記憶に書き換えるつもりだった。しかしリーニエはもう自由の身だ。アーリンに従う事は無い。 だからリーニエから短剣を奪い返したのだ。今の一瞬で。 「さあ!」 アーリンはピアリの首に手を回した。 セレは大地の魔法を発動させアーリンの動きを封じようとしたが、すぐに相殺(そうさい)され何の妨げにもならなかった。 「セレ、どうやらキミと私の魔法は強さも発動のスピードも同じらしい。」 …何とかできる相手ではない… そう悟りセレは短剣を抜いた。 左手の甲に刃を当て、スッと引いた。 傷口から、血と共に身体中の力も記憶も流れ出るような感じがした。 …ああ、忘れたくない。父上、母上、ピアリ、ヴァッシュ様、みんな… 薄れゆく意識の中でそう念じた。 セレは崩れ落ちた。
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