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第4章 セレ
セレが目覚めたのは肌触りの良い布団の中だった。
部屋を見回した。
時計、鏡、テーブル、椅子、カーテン、書棚、キャビネット…
物の名前は分かる。使い方も分かる。
時計はもう少しで昼になる。時間も分かる。
数字や文字も読める。言葉も分かる。それなのに自分自身の事は何一つ分からない。
…ここはどこなんだ?何故ここにいる?そもそも私は何者なんだ?どこでどういう風に生きて来た?…
鏡を見た。
…これが私か…
男だという事、20代後半から30歳ぐらいという事、特に変わったところが無い事…
それぐらいしか見て取れない。
服は旅で着ていたものではなく、柔らかくて暖かいフランネルの部屋着だったが、服が変わっている事にはセレは気が付かない。
ふと、ドアの外に人の気配を感じた。
…誰かいるのか…
ドアを開けてみると、中年のグレーの髪の男が立っていた。きちんとした態度ではあるが、何故か好感は持てなかった。
「フリート様、お目覚めでしたか。ご気分はいかがです?」
…フリート?私の名前か?…
自分の名前にしては違和感を感じた。
「キミは?」
「ランスです。またいつもの御冗談ですね。忘れたふりなどしても、もう驚きませんよ。」
ランスは笑った。
セレは怪訝な顔でランスを見た。
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