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昨日はフリートの誕生日で、夜は内輪の祝賀会だったと言う。
「たった一人の我が息子の誕生日だぞ。私は嬉しくてな。ついついお前と酒が進んでしまったんだ。」
フリートはふらついた足取りで自室に戻ろうとして階段を踏み外したらしい。
「頭を抑えていたのが少々気にはなったが、すぐに起き上がったから大した事はないと思ったのだ。やはり昨日の内に医者に診せるべきだった…」
アーリンはいかにも心配そうにセレの顔を見た。
「お前だけが私の生き甲斐なのだよ。お前に何かあったら、どうしていいか分からない。治ると良いのだが…。」
…父上、なのか?…
確かに瞳の色は似ている。顔立ちも、何か血縁を感じるところがある。
…だけど家族ならもっと心が暖かくならないか?…
こんなに近くで目を合わせても胸のざわつきが治らない。
「はい。」
とりあえず返事はしたが、どうも腑に落ちない。
「フリート様、お部屋に戻りましょう。安静になさって下さい。」
ランスに勧められるまま、セレは踵を返し部屋に戻ろうと歩き出した。その時…
「歌声?」
女性の歌声が聞こえてきた。
…なんて美しい声だ。優しくて明るくて、心が穏やかになる…
セレは足を止めて聞き入った。
ピアリの声だった。
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