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「この声は?」
「良い声だろう?私も気に入ってな。あの歌を聞く為にここに住まわせているのだ。」
アーリンが答えた。
声が気に入っている、と言うのは嘘だ。万が一、セレが記憶を取り戻した時のための人質だ。
「会いに行ってもいいですか?」
「治ったらな。今は部屋に戻りなさい。」
「はい。」
セレは素直にアーリンに従った。
…フリをしただけだった。
いったんは部屋に戻ったものの、歌声の主が気になって仕方ない。
記憶を失っても生来の好奇心の強さは変わらなかった。
…声は東から聞こえて来た。かなり上の方だ。塔かな。どうやって行こうか…
セレの部屋は城の本館の二階だ。真上にアーリンの部屋があるのはさっきの足音で分かった。
声の伝わり方からして東の塔へはアーリンの部屋の辺りから通路が伸びている。
…上の階は通りたくないな。それにドアの外にはランスがいるだろうし…
「窓だな。」
窓に鍵はかかっていなかった。窓を開けて見下ろすと城の壁が10メートルほど。その下は天然の絶壁。どのくらいの高さがあるのか…途中からは霧に包まれて見えなかった。
「落ちたら死ぬな。」
と言いつつ窓枠にひょいと飛び乗り、上の壁の出っ張りに手を掛けた。
「よっ、と。」
窓から乗り出し壁に張り付いた。
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