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医者が様子を見に来た。これもまたアーリンの傀儡だ。
「フリート様は記憶喪失という脳の病気になったものと思われます。」
金縁の丸眼鏡で小太りの医者が言った。
「記憶喪失?治るのか?」
アーリンも立ち会っていた。
「何とも言えません。薬で治る病気ではないのです。徐々に記憶を取り戻す場合もありますが、一向に何も思い出せない場合もございます。」
「何も手は無いのか?」
「ご家族の愛情が一番です。記憶を失った人間はとにかく不安なものです。
不安は脳の機能回復の妨げになります。不安を取り除く事で心が安定し脳が正常に戻る確率が上がります。
アーリン様は充分にフリート様に愛情を注いでおられる。大丈夫でしょう。」
もっともらしい事を言うが、全てアーリンの差し金だ。
アーリンは笑みを浮かべた。
「いや、今まで以上にフリートを大切にしよう。」
「なんですと!フリート様の望む物は全てお与えになっていたと言うのに、これ以上何を?」
いかにもアーリンがフリートを大切に扱っていると印象付ける言い方だ。
「フリート、私はまだまだお前の事を理解できていなかったのかもしれん。すまない。もっと語り合えば良かった。」
セレの手を取り、真正面から目を見て言った。
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