一品目:わかめの味噌汁/姫乃井尚斗

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一品目:わかめの味噌汁/姫乃井尚斗

 自室のベッドの上で本を読んでいると、『コンコン』と部屋の扉をノックする音が聞こえる。 「なお、ちょっといいかい?」  扉を開け、顔を覗かせたのは祖父の泰正だった。  今日は仕事が休みだから、たまにはのんびりしたいと言っていた。  満喫しきったような面持ちで現れた泰正は、顔を綻ばせたまま、 「夕飯の買い物に行こうと思うんだけど、なにか食べたいものはあるかい?」  と尋ねてきた。  基本、献立については互いの希望半々と言ったところだが、日頃から食に関心が薄く、少食且つ偏食な自分の方が優遇される傾向にある。  というのも、泰正自身は好き嫌いもなく何でもよく食べるからだ。  あれこれと好き嫌いをして申し訳ない気持ちもあるが、できれば口にしたくないのだから仕方がない。 「昨日食べた魚、美味しかった」 「あぁ、あれはえっと……大海原亭で買ったやつかな。鱈の煮付け」 「骨がなくて食べやすかったから」 「二日続けては飽きないかい?」 「大丈夫。あとピリ辛こんにゃく食べたい」  魚にも好みがあり、どちらかというと淡白な魚の方が好きだ。青魚は小骨が多いのでどうも苦手なのだけれど。気に入れば数日続いても食べられるから、本当に偏食なのだと思う。  俺の返事を聞いた泰正が、とろりと(まなじり)を下げる。 「わかった。じゃあ鱈の煮付けとピリ辛こんにゃく、あと八百心(やおしん)さんで葉物を買ってきておひたしでも作ろうか」  指折り数えて買う物を上げていく泰正に向かって、 「あ、八百心行くなら辛子高菜の刻んだやつ買って。もう食べ終わるから」  そうつけ加える。
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