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三品目:お雑煮/箱根美山
ふかふか……ふわふわ。
なんだか綿に包まれているみたい。あったかくてぬくぬくしていて気持ちいいなぁ……。
そろそろ起きないといけないけれど、僕の瞼はまったく上がらない。
ずっとウトウトと微睡んでいて、開くことのない視界は暗いまま。
ふかふか、ふわふわ、ぬくぬく……ん? なんだか……ムズムズする!
「っはっくしょん!!」
「ワウッ!?」
大きなくしゃみをひとつして、鼻の下をこする。あまりにも大きな声が出たから、僕はぱっちりと目を開けてしまった。
視界いっぱいに広がる、もじゃもじゃとした大量の〝毛〟
「クゥ~ン?」
くしゃみを真後ろから浴びた〝花さん〟が、もぞ、と動いて体勢を変えると僕の鼻先をぺろりと舐めて、様子を伺うように鳴いた。
花さんは僕が高校生くらいの頃に我が家にやってきた犬だ。
その時は、抱っこで運べるぬいぐるみくらいのサイズだったのに、いまや体重27キロの立派な大型犬へと成長したので、寝そべると身長171センチの僕よりちょっと短いくらいだ。
背中側は濃いクリーム色の長めの毛、おなか側は薄いクリーム色の短い毛が特徴(ダブルコートって言うらしい)で、くりくりとした目に、垂れた耳、黒い鼻に薄いピンク色の模様がある。この模様が花びらみたいだからって、お祖父さんが〝花〟って名付けた。
僕よりあとに家族になったのに、僕よりしっかりしているから、僕は彼女を〝花さん〟と呼んでいる。覗き込んでくる花さんの鼻筋を撫でながら、
「……おはよう、花さん」
と消え入りそうな声で呟いた。寝起きはどうしたって声が出ないんだよねぇ……。
ぼんやりしている僕の首元に花さんが鼻先をつっこんできて、おでこで下から顎をグイグイつつき出した。
ははぁ、これは起きろってことですね?
「わかったよ~……起きるよぉ~……」
ノロノロと上体を起こすと、花さんがこれみよがしに掛け布団の端っこを咥えて引っ張っていく。
あぁ~僕の布団がー……。
花さんは僕の起こし方をよく知っている。やっぱり温かいと、起きれないもんね。
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