三品目:お雑煮/箱根美山

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 ドッグフードって、ぽそぽそしてそうだけど、美味しいのかな? どんな味がするんだろう……なーんて思っても、実際に食べてみる勇気はない。猫缶の中身は、ツナ缶みたいで美味しそうだけどね。 「さてと、花さんがご飯を食べてるから僕もなにか食べようかな?」  ためしに炊飯器を開けてみる。中身は空っぽ。次にパンを置いているカゴの中を覗く。ここも空っぽだ。 「そういえば、お祖父さんとお祖母さん、俳句同好会の新年会で昨日から温泉行ってるんだっけ……」  いまこの家には、僕と花さんとお祖父さんとお祖母さんの四人で暮らしている。両親は職場恋愛の末の結婚だったけど、もともとそういう会社なのか支店異動が多く、僕は子供の頃から転勤族だった。  2、3年に一度は勤務地が変わるから新しい環境に馴染むのも大変で、もちろん長く仲良くできた友達もいなくて。地方を転々としてようやくお祖父さんたちが住んでいる今の土地へ転勤が決まった時、お祖父さんが「うちに住め」と言ってくれたお陰で、僕は鍵っ子の環境から〝家に帰ればお祖父さんたちがいる〟環境へと身を置くことができるようになった。  そして大学受験を控えた高三の夏、両親に海外赴任の話が持ち上がった。  その時お祖父さんとお祖母さんが「これ以上美山(よしたか)をお前たちの仕事の都合で振り回すな」と言って「美山はここで面倒を見るから気にせず仕事に行け」と言ってくれたおかげで、僕は大学受験も教師になる道も諦めずに済んだというわけだ。  そんな時にお祖父さんが「美山の妹を連れてきた」と言って帰ってきた。  なんの冗談かと思ってお祖父さんが持っていたダンボール箱を開けると、そこにいたのが花さんだったんだよねぇ……。多頭で生まれて里親を探していた家から貰ってきたって聞いて、あれは驚いたなぁ……。  でも、仲いい友達もいなくて、両親も仕事で海外に行っちゃって、きっと僕が寂しい思いをしてるって、お祖父さんは思ったんだろうなぁ。  そんな、普段は四人で暮らす家に、いまは花さんと僕のふたりだけ。お祖父さんたちが帰ってくるのは明日の夕方だから、それまで僕がしっかりしないとな。 「しかし、すぐに食べられるものがないと明日の朝もまた悩むことになるよね。冷蔵庫には何があるかな……お給料日はまだまだ先だし、贅沢するわけにもね」  冷蔵庫を開けて中を覗いてみる。  おおお……お新香とかかまぼことか、お酒のおつまみになりそうなものしかないぞ?
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