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「これは……黒豆か。こっちは、伊達巻。開いてないしおせち料理に入れなかった分かな? おせち料理……そういえば鏡開きってもう終わったんだっけ?」
チノパンのポケットに入れていたスマホを取り出してカレンダーアプリを開く。タイミングの悪いことに鏡開きは数日前に終わっている。
けれど考えていたからかすっかりお餅の口になってしまった。鏡開きといえばお汁粉。でも……。
「さすがに朝ご飯にお汁粉はなぁー。好きだけど、そうじゃないっていうか」
お祖母さんもお祖父さんもお汁粉が好きだから、材料くらいどこかにあるだろうとは思う。けど、できるならお汁粉はお三時がいい。
朝ご飯の代わりになる、お餅を使える料理……。
「そうだ、お雑煮を作ってみようかな。前に作り方は教わったし。まずは買い物だ! 花さーん?」
ポンッと手を打ってさっきまでご飯に夢中になっていた花さんの姿を探す。朝の散歩もまだだし、スーパーまで一緒に連れて行こう。
『トトト』と足音がして花さんが台所に顔を出す。その口に咥えられているのは、散歩用のリードだった。
「あはは、買い物って言ったの、聞こえたの?」
「ワンッ!」
「ホントに花さんはおりこうだね~。お散歩セットとバッグ持ってくるから一緒に行こうね」
花さんのお皿をゆすいで綺麗なタオルの上に置き、自室に戻る前に洗面所に寄って洗い終わった掛け布団カバーを洗濯機から取り出し、縁側に向かう。
雨戸を開けて、つっかけを履いて庭に出ると、洗濯物干しに掛け布団カバーを広げて干した。端っこは、飛んでいかないように洗濯バサミで留める。これでオッケー。窓を閉めて自室に向かう。
花さんのお散歩セットは小さめのトートバッグにひとまとめにして入口を入ってすぐのところに置いている。目視で確認してポールハンガーにかかっている冬用の上着を手に取った。
就職したお祝いに買った、ブラウンカラーのダッフルコート。これ、すごく温かいんだよね。コートを羽織って前を留める。あとは自分の財布やエコバッグ、ハンカチ・ティッシュを入れたメッセンジャーバッグもポールハンガーから取ってショルダーがけにし、バッグ部分が前に来るように調整する。お散歩セットを持って、よし準備完了!
「ワウッ!」
僕の準備が終わるまで廊下でお座り姿勢のまま待機していた花さんが、すっくと立ち上がった。
ふさふさの尻尾を揺らして、キラキラとした眼差しで僕を見上げてくる。
口元がちょっとだけ笑っているように見えるのが、なんだか可笑しい。
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