15人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
やっぱり僕のクラスの大海原太鳳君だ。
ちなみに彼の言う〝関所先生〟というのは、僕の学校での生徒間のあだ名らしい。由来は〝箱根の関所〟からきているとか。
「僕はスーパーに用があって……大海原君こそ、どうしたの?」
「オレっち? 漫画の新刊買いに来た! いやさー、地元の本屋に売ってなくて。やっぱでっかい本屋は新刊の揃えがいいよなー! 〝武蔵のオキテ〟って現代に蘇った剣豪・宮本武蔵が悪事を働く悪い奴らを夜な夜な始末していく痛快アクションなんだけどよ、すんげー面白いんだぜ!」
「あ、あぁ……そうなんだ?」
瞳をキラキラさせながら大海原君が熱弁を振るう。
漫画はほとんど読まないから、それがどういうものなのかはよくわからないけど……そんなに面白いんだ? 今度見かけたら買ってみよう。
「ところで……うちの花さんがごめんね? 重いでしょう?」
「うちの? あ、ホントだ! 首輪に〝はこね はな〟って書いてあらぁ! そっかそっか、お前は先生んトコの子かぁ!」
「ワンッ!」
座り込んだ大海原君のお腹に前足をかけて、顔を近づけてクンクン匂いを嗅いでいる花さんを後ろから捕まえる。
大海原君のジャージを見ると、生地が黒っぽいから花さんの毛がたくさんついて毛だらけだ。後ではらってあげないと……。
「花さ~ん、ダメだよ~? 大海原君、重くて動けないよ~?」
「クゥ?」
「だぁーいじょーぶだって! 普段から店の手伝いとか剣道で鍛えてっし!」
大海原君が腕を広げて袖をまくり、力こぶを作って見せる。
おぉぉ……しっかり筋肉ついてるんだなぁ。
一方の花さんは、大海原君にたくさん撫でてもらって満足そうに目を細める。ここで寝ないでね? これから帰るんだから。
「これから散歩?」
「あ、いや。お雑煮でも作って食べようかなって材料を買いに来たんだ。終わったからこれから帰るよ」
「そっかー。じゃあお前も帰っちまうんだなー」
花さんを撫でながらちょっとしょんぼりする大海原君。そんな大海原君を見上げる花さんも、どことなく名残惜しそうな表情をしている。
花さんは人懐っこい方だけど、こんなに名残惜しそうにするのも珍しい。
(よっぽど大海原君のことが気に入ったんだなぁ……)
最初のコメントを投稿しよう!