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そんなことをぼんやり思っていたら、どこからともなく『ぐぅぅぅぅぅぅ……』と地鳴りのような音が聞こえた。
花さんが耳をピクリと動かして、周りを警戒する。
「朝飯食わないで出てきたから腹減ったなぁ……」
大海原君が天を仰いでボヤく。
……ということは、いまのは大海原君のお腹の音か。それにしても、すごい音だ。
「もしかして、本屋さんの開店時間に合わせて来たの?」
「おうよ。チャリっつってもさ、家からここまでだとやっぱ距離あるし」
「えぇ!? 自転車で来たのかい? 大海原君の家って学校最寄りの商店街にあるお弁当屋さんだよね?」
「ここまでチャリで30分もありゃ着くんだぜ? だったらチャリで来るだろ!」
「いや、……うーん……そう、なのかなぁ……?」
納得できる理由のような、そうでもないような、なんとも言えない気持ちでいると、また大海原君のお腹が空腹を訴えて『ぐきゅるるるる……』と唸りを上げる。
早いところランチタイムにしないと、大海原君のお腹がぺっしゃんこに減ってしまうような、そんな気がした。
「あの、大海原君……うちでご飯食べていく? 僕も朝ご飯まだなんだ。まぁ今から帰って作るとお昼になっちゃうけど、朝昼兼用ってことで」
どうせ帰ってひとりで黙々と食べるより、誰かいた方がきっと楽しい。それに花さんもまだ離れたくなさそうにしてるし……。
僕の提案に、大海原君はぱちぱちと瞬きをしてぽかんと口を開けた。次の瞬間、すっくと立ち上がると、
「マジで!? えっ!? マジで行っていいの!?」
と、期待に満ちた表情と声をさせながら僕に詰め寄ってきた。
ちゃんと立つと僕より大海原君の方が背が大きいから、上から覗き込まれるような形で詰め寄られて、思わず上半身を反らす。
「う、うん。メニューはお雑煮だけどね……大海原君、お雑煮好き?」
「ぜっっっっんぜん食える! 雑煮も好きだしー、きなこ餅とか、あんころ餅とかも好きだぜ!」
指折り数えてメニューを上げていく大海原君の口角はすっかり上がりきっていて、体全体で嬉しさを表現しているように見えて、なんだかちょっと犬っぽいななんて思ってしまった。
「よっしゃー!! 関所先生んちでお雑煮食うぞー!」
「あ、あはは……美味しく作れるように頑張るよ」
「ワンッ!」
こうして、大海原君と一緒にお雑煮を食べるため、僕らは家路を急いだ。
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