一品目:わかめの味噌汁/姫乃井尚斗

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 八百心は駅前商店街にある個人経営の八百屋なのだが、ここで作って売っている辛子高菜がどこの店の辛子高菜より美味しくてお気に入りなのだ。  添加物が少ないからなのか店主の作り方がいいのかはわからないが、とにかく美味しくてあとを引いてしまう。  ご飯のお供としてだけではなく、お茶請けにも最適だ。 「おや、もう食べたのかい? 月の初めに買ったばかりだろう?」 「でも、美味しいからついいっぱい食べちゃって」 「わかった、じゃあそれも買ってくるよ。すまないけれど、お米とお味噌汁の支度をお願いできるかい?」 「わかった、やっておくね。炊飯器は17時でいい?」 「あぁ、それでいいよ」 「じゃあ行ってくる」──そう言い残し、泰正が部屋の扉を閉め、その足音が遠ざかっていく。  胡座をかいた上に開いたままの、読みさしの小説に視線を落とす。  あと3ページ読めば次の章だ。 (これ読んだら、やりに行こう……)  そう思いながら、目の前の小説を読むことに集中した。  * * * * *  3ページ分読み終え、栞をはさみ本を机の上に置くと、自室を出て母屋にある台所へ向かった。  炊飯器を置いている台の下は開き戸になっているのでそこを開けると、プラスチックタイプの米びつが顔を覗かせる。 「えっと、じーちゃんは朝もご飯派だから二合にしておこう。生米はカップすりきり二杯……」  ぶつくさと独り言ちながら用意したザルに米を二合分計って入れる。  シンクに水桶とザルを置き、水道の蛇口をひねって水を出すと、米を研ぎ始める。
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