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四品目:柚子ジャム/曇狼月冴
「つーちゃん、ちょっと降りてきてぇ」
「はーい」
夕飯のあと自室でくつろいでいたら、母さんに呼ばれた。
夕飯後から寝るまでの間って、各々の自由時間っぽくなってるから、お土産があるとか特別話があるとか、そういうことでもない限り呼ばれることはない。時々部屋の前を通りかかったついでで声をかけられることは、まぁよくあるけど。
階段を降りてリビングに行くと、俺を呼んだはずの母さんはどこにもいなかった。
(あれ? おっかしーなぁ、ここだと思ったんだけど)
母さんは家の中にいる時、家事をしている以外はだいたいリビングにいる。というのも、俺たち家族が集まることが一番多い場所だからだ。
そんな家族が集まる場所だから、家の中で一番居心地がいいのだと、口癖のように言う。
「あっ、つーちゃん!」
母さんの綺麗なソプラノが聞こえて、声のした方へ視線を向けると、母さんはキッチンのシンク前に陣取って、困ったように笑っていた。
母さんがこういう顔をしている時は、大体、俺にやってほしいことがある時だったりする。
たとえば、ちょっと力がいることとか。
「なにー? また瓶の蓋でも固まった?」
言いながらキッチンへ顔を出す。
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