四品目:柚子ジャム/曇狼月冴

1/9

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ

四品目:柚子ジャム/曇狼月冴

「つーちゃん、ちょっと降りてきてぇ」 「はーい」  夕飯のあと自室でくつろいでいたら、母さんに呼ばれた。  夕飯後から寝るまでの間って、各々の自由時間っぽくなってるから、お土産があるとか特別話があるとか、そういうことでもない限り呼ばれることはない。時々部屋の前を通りかかったついでで声をかけられることは、まぁよくあるけど。  階段を降りてリビングに行くと、俺を呼んだはずの母さんはどこにもいなかった。 (あれ? おっかしーなぁ、ここだと思ったんだけど)  母さんは家の中にいる時、家事をしている以外はだいたいリビングにいる。というのも、俺たち家族が集まることが一番多い場所だからだ。  そんな家族が集まる場所だから、家の中で一番居心地がいいのだと、口癖のように言う。 「あっ、つーちゃん!」  母さんの綺麗なソプラノが聞こえて、声のした方へ視線を向けると、母さんはキッチンのシンク前に陣取って、困ったように笑っていた。  母さんがこういう顔をしている時は、大体、俺にやってほしいことがある時だったりする。  たとえば、ちょっと力がいることとか。 「なにー? また瓶の蓋でも固まった?」  言いながらキッチンへ顔を出す。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加