四品目:柚子ジャム/曇狼月冴

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 正直言って、いや口に出すのも悔しいけど、力が必要なことと高い所のことなら、俺より弟の拓海に頼むのが正解だ。  中学三年にして180センチを越えている拓海に、家の中の高い所で届かない場所はないし、帰宅部でゲームばっかりやってるくせに俺より力があるから、ちょっと固く閉じた蓋なんかはいとも簡単に開けてしまう。  たとえ注意書きに『湯煎してから開けましょう』とか書いてあっても、だ。どんだけ馬鹿力なんだよ。それで開けたら開けたで「手が痛ーい!」とかベソかいてるんだから、最初から注意書き守れよなって思っちゃう。 「ううん、蓋は固まってないわ。どちらかというと、瓶の中身を作ってほしいなぁって」 「へ?」  微笑む母さんの手元を覗き込むと、シンクに置いた大きめの金ザルいっぱいに積まれた黄色い球体。ひとつ手に取って匂いを嗅いでみる。 「柚子?」 「そう! お隣さんがね、『今年はたくさん採れたので曇狼さんも食べてください』ってくださったの! でもねー、ユズってママの故郷(スウェーデン)にはないモノでしょう? だから、どうやって食べたらいいのかわからなくて」 「あー……たしかに。柚子はもともと中国から日本に渡ってきたものだけど、いまや生産量・消費量共に日本が最大だからね。んー、薬味や風味づけに使われることが多いから、メイン食材ってわけでもないんだよな。何個か形の悪いのはゆず湯に使うとして、これだけの量をいっぺんに消費するレシピかぁ……さすがに漬物を大量に作るわけにも」  白菜の浅漬に柚子の皮を入れたり、ゆず大根って大根と一緒に柚子の皮と果汁を合わせて漬ける漬物が市販品でも売られているのは知っている。  けど、そればっかり作って食べるわけにもいかない。  果汁ならはちみつを入れてお湯で割ったゆず茶とかにもできるけど、やっぱりそればっかり飲むわけにも……。  それらを作りながら、もっと大量に柚子を消費するレシピを考えないと。  柚子は香りが命だから香りを飛ばさないように保存するとしても二週間が限度。なるたけ冷凍しないで使い切りたい。
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