四品目:柚子ジャム/曇狼月冴

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「つーちゃんのお友達は、ユズいらないかしら?」 「料理をする友達は何人かいるけど、生柚子を沢山貰っても困っちゃうんじゃないかなー……困らないでくれそうなの、ひとりしか浮かばない」  頭の片隅に、クラス委員長の喜多里彩斗の顔が浮かんでくる。  彩斗ならお母さんが料理教室の先生やってるし、きっと良い使い道を知っていそうだけど、渡しに行くには時間が遅すぎる。  渡す分をあらかじめ除けておいて、残ったものを使い切れるなにかいいレシピは……。 「あ、そっか。ジャムにしてみんなに配ればいいんだ」 「まぁ! ユズがジャムになるの!? ステキじゃない!」  ふと口にした妙案に、母さんが両手を『パンッ』と打ち鳴らしてキラキラとした眼差しで俺を見る。  どこらへんが〝ステキ〟なのかはわからないけど、ジャムなら一気に大量の柚子を消費できるし、果汁も分けられるからそれは別で瓶に詰めて料理や割り物に使える。  問題は、いま俺の家にある砂糖の量だ。ジャムはもともと砂糖を多く使うレシピの代表格。調整するといってもそれなりの量が必要になる。  食器棚の横にいつも俺がお菓子作りをするのに必要な材料をストックしているストッカーがある。  キャスター付きのそれを引っ張り出してシュガー類を入れてあるバスケットの中を漁ると、開封済みのグラニュー糖と、未開封のグラニュー糖に上白糖、それに三温糖やら粉砂糖やらシナモンシュガーやら色々出てきた。 (なんかすっかり溜め込んじゃってたみたい。えっと、ジャムに向いているのはグラニュー糖、だよな?)  開封済みのグラニュー糖と未開封のもの、どちらも手に取って出した中身を戻すと、次に違うバスケットからはちみつのボトルを取り出す。 「はちみつも入れるの?」  母さんが後ろから覗き込みながら興味深そうに尋ねてくる。 「あぁー、〝俺は〟だけどね。柑橘類は皮の処理をしっかりしても苦味が残りやすいから、はちみつを入れて少し緩和するんだ」 「ゆずはちみつキャンディーとかあるくらいだしね」と付け加えると「そうね!」と母さんがまた笑顔になり両手を打ち鳴らす。これで材料が揃った。俺はシンクのザルいっぱいの柚子を見下ろす。
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