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「あら? 泡みたいなのがでてきたわ」
「それはアクだよ。それをちゃんと取っておかないと、苦味が残っちゃうんだ。でも茹でこぼしを二回してるから少ないね」
アク取りで丁寧にアクをすくう。数回に分けて取るとすっかり透き通った柚子の皮がツヤツヤとしてくるのがわかる。
「このまま煮詰めていくと種からペクチンが出てきてトロッとしてくるから、適当なところで火を止めて完成ね」
ある程度煮詰めてとろみが出てきたところで火を止める。綺麗なスプーンで熱々のジャムをすくって、十分冷ましてから手のひらに乗せて味見をしてみる。
(お! はちみつがいいアクセントだし、果汁を入れたことで酸味も出てさっぱりしてる。これはますますスコーンとクロテッドクリームと一緒に食べたくなるな)
そんなことを心の中で思えば自然と口角が上がる。
母さんを手招いて同じように味見を手に乗せてあげると、口に含んだ母さんの表情が『パァァ』と明るくなる。これは美味しいって顔だ。
あとはこれを瓶に移せば、晴れて柚子ジャムの完成。
やー、頑張ったよ俺。
「瓶、ぜんぶ乾いたみたい」
「ほんと? ちょっと見せて」
ひと足先にリビングに向かった母さんが、ダイニングテーブルの上で乾かしていた瓶を見るなりそんなことを言うので、俺も足早にリビングに向かう。
煮沸消毒って乾くまで触っちゃダメだから遠目から確認だ。
「うん、瓶の口までしっかり乾いてるね。これなら大丈夫」
キッチンに戻って完成したジャムの入った鍋を持って再びリビングに戻る。母さんと手分けしてスプーンを使ってジャムを瓶に移すと、間接照明に照らされた瓶と中に入った淡いはちみつ色のジャムがキラキラ光って眩しい。
思いつきで作ったにしては、なかなかいい出来じゃないかな?
「すごいわ、つーちゃん! やっぱりつーちゃんは頼りになるわねぇ!」
「早く食べたいわぁ♡」──出来上がったジャムを見て母さんがはしゃいでいる。
明日はきっと早起きしてホームベーカリーでパンなんか焼いちゃうんだろうなぁ……。翌日の母さんの様子が目に浮かぶ。
「そんなに褒めなくても。さーて、後片付けしちゃおう。終わらないと寝られないよ」
少しだけ凝り固まった肩をほぐすように伸びをする。
中身を移して空っぽになった鍋を持って、俺は足早にキッチンへと戻ったのだった。
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