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心の中でそんなことを思うオレをよそに、倭斗は相変わらず口の端っこを上げたまま、上着のポケットから取り出したスマホをポチポチと操作して、やたらといろんな写真が貼っつけてあるページを開いてオレの方に向けてきた。
ページの真ん中にでかでかと〝全国恵方巻市〟と書いてあるそのページは、オレたちが行こうとしている催事に関するページらしい。
全国の恵方巻を写真つきで紹介してるみてぇだが……字が小さくて読めねぇよ。
「朔夜はなに食いたい? いろいろあるで?」
四階、五階と徐々に目的の階に近づいていく中、倭斗はオレの方を何度も振り返りながら楽しそうに話しかけてくる。
いろいろあるっつっても、そのページの細けぇ文字を読むのが億劫だっつーんだ……。
「肉入ってるやつ」
「ふはっ、朔夜はほんと肉好きやなぁ。おっ、あるあるー。『牛ぎゅう恵方巻──特製醤油で甘辛く煮込んだ国産和牛をたっぷり巻いた一品! お肉好きにはたまらないイチオシの恵方巻です』やって。これええんちゃう? 旨そうやで?」
画面を指先でつつきながら倭斗が笑う。
指先の向こうに、恵方巻の写真が載っている。煮つけた肉以外の具は入ってないらしく見た目は地味だが、たしかに旨そうだ。
「ほかにはー……あ、カツ巻きみたいなんもあるで?」
「アンタも選べ」
「俺はかんぴょうとか煮穴子が入ってる普通の太巻きみたいなんが……あ、こっちの海鮮巻みたいなんもええなぁ、どれにしよー」
さっきからずっと口の端っこが上がりっぱなしで、このまま催事場に行ったらコイツの口は開きっぱなしになっちまうんじゃねぇか、なんて思う。
どんぐりみてぇにまんまるな目──子供みてぇにはしゃいだ顔──下りエスカレーターに乗った二人組の女がすれ違いざまにチラッと倭斗の方を見て笑いを漏らす。
……見てんじゃねぇよ。
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