五品目:ちぎりはんぺんとわかめと三つ葉のお吸い物/秋月朔夜

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 六階から七階に上がるタイミングで、ほんの少し倭斗を内側に入れて、下りエスカレーター側から見えなくするように体を割り込ませる。 「なん──、」 「はしゃぎすぎて目立ってんぞ」  顔を下げると近くに迫る倭斗の形の良い頭に顎を乗せる。  そのままてっぺんのつむじに向かってフッと息を吹いてやった。ヒュッと首を竦ませんのが面白い。  楽しみではしゃいでんのは悪いことじゃねぇが、コイツが笑われてんのはいい気しねぇ。見せモンじゃねぇんだよ。 「あ、ここや」  人の気配に気づいたのか竦めた首を伸ばして倭斗が顔を上げる。  結局催事場は七階だったらしい。エスカレーターを降りてフロアの入口に向かうと、〝全国恵方巻市〟と書かれたでっかい立て看板が目に入る。  奥は屋台みたいなのがズラリと並び、恵方巻を求める客で賑わっていた。 「とりあえずさっきスマホで見てたのから買って、あとなんか適当に見よか」 「おぅ」  近くの柱に店の配置図が貼ってある。  さっき目星をつけた店を探し、目当ての恵方巻を早々に買い込んで、あとはそこいらの店を適当に覗いて回った。
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