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「やー、やっぱり催事はおもろいなぁ。つい買い過ぎてしもたわ」
「お前が食いモンに執着すんのも珍しいな」
「楽しない? なんちゅうかこう、ワクワクするやん!」
オレが提げてる恵方巻が入った紙袋を締まりない顔で見る倭斗がそんな風に言う。
「お前、言ってることが龍や太鳳と変わんねぇぞ」
「せやって。帰って食うんが楽しみや」
たかだかこんな催事で飯を食う気になるってんなら、倭斗が興味を引く催事を毎日やってくれてもいいなんて思う。
が、それじゃコイツが破産しちまうな。やっぱ毎日じゃなくていい。
すっかり夜になった街を倭斗と並んで歩きながら空いてる方の手を伸ばすと、意図を汲み取ったのか倭斗が躊躇いなく手を繋いできた。
他の誰かがいる時はこんな触れ合いさえも無いに等しいが、ふたりっきりなら話は別だ。いつだって触りてぇし、キスだってセックスだってしてぇ。
年頃の、サカリのついた野郎が頭ン中で考えてるコトなんてそんなモンだ。
「帰ったら汁物だけ作ろ思うとるんやけど、夕飯待てるか?」
くいくいと手を引っ張られ、倭斗の方を見ると首を傾げて尋ねてくる。
「別になくたっていいぞ?」
代わりに水がありゃいいしな……そんな風に心の中で思っていたら、
「せっかく恵方巻買うてきたんやもん、やっぱり汁物くらいはないと」
見透かしたような言い方で、倭斗が言う。
「そういうもんか」
倭斗が作るモンはなんだって旨い。旨い恵方巻に旨い汁物。そう言われたらないよりある方がいい。
「そうや、簡単やし朔夜作ってみるか? 包丁も使わんし」
「オレが?」
倭斗が作ったモンが食えると思っていただけに一瞬面食らう。
オレが倭斗の家に行くと毎回作らせる羽目になってっし、たまにはオレがやってもバチは当たんねぇんだろうが……。
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