五品目:ちぎりはんぺんとわかめと三つ葉のお吸い物/秋月朔夜

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「……ただいま。朔夜も、おかえり」 「ただいま」  そのまま顔を寄せてキスしてやる。冷たくなった鼻先が当たって、このまま温めてやってもいいかもな、なんて思っちまった。  少しだけ開いてる唇を舌先でつっつくと、倭斗がギュッと目を瞑った。 (……ンだよ、そういう反応されっといいようにとっちまうだろ)  倭斗も期待してたのか──そんな都合のいいことを思いながら、上着をよけて服の上から腰を撫でると、目の前の細い体がビクッと跳ねた。  冗談のつもりだったんだが……まぁどの道するつもりはあったし、順番がちぃっとばかし早まっただけだしな……倭斗がその気ならいいか──なんて思って今度は服の裾をまくろうとシャツを掴む。 「まっ、朔夜──飯は?」  腕をがっちり掴んだかと思えば、倭斗が困ったような顔をしてオレの方を見上げている。 「あ? その気になったんじゃねぇのか」 「ちゃうて、ちょっとびっくりしただけっちゅうか……」 「……なんだ」  条件反射ってやつか……まぁそうだよな。ずっと恵方巻を楽しみにして汁物まで作ろーって言いながら帰ってきたヤツが、玄関でおっぱじめるなんて考え持ってるわけねぇよな。オレの中で湧き上がっていたムラムラがおとなしく引っ込む。  リビングに続く戸を開け、奥にあるソファーのところまで進んだ倭斗は、そこで上着を脱いで簡単に畳むとソファーの上に置いた。  オレも持ってた紙袋をダイニングテーブルの上に置いて、他の上着だ荷物だは倭斗と同じようにソファーに置く。 「さてー、ほんじゃ手ぇ洗ってお吸い物作りますかぁ」 「おぅ」  台所で順番に手を洗う。先に手を洗った倭斗はいそいそ冷蔵庫に向かい、扉を開けると中から材料を取り出した。
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