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「あとは恵方巻やけど、今年はどっち向きなんかな?」
「南南東って書いてあんぞ。南南東ってどっちだ?」
紙袋の中を覗くと、どっかの店が恵方巻の食べ方を入れたらしくその紙に『今年は南南東!』と書かれていた。
細けぇな、東西南北だけでいいじゃねぇか。
「南南東やとー……あっちかな!」
倭斗がベランダの方を向いてからほんの少し左側に体を向け窓の外を指差す。
(ま、適当になるよな……)
合ってるのか合ってないのかはさておき、それぞれが食いたい恵方巻を出して椅子に座った状態でおおよそ南南東を向いた。
「本当は一本丸々黙って食うと願いが叶うとか言われとんのやけど、しんどいから半分にしよか」
「お前は半分にしとけ、オレは食えるだけ食う」
「喉に詰まっても困るしな」──その一言は、言わずに飲み込んだ。
一緒にいただきますをして、恵方巻にかぶりつく。
「んぉ!」
「ッ!」
『うまい!』
さすが全国選りすぐりなだけある。甘辛く煮た肉と海苔の香ばしさでメシが進む。
倭斗は……普通の太巻きみたいなのにしてたが、そっちも旨いみたいだ。半分まで齧って皿に置いたあと、
「恵方巻久しぶりに食うたけど、やっぱうまいなぁ」
なんて機嫌良さそうに呟く。
「朔夜が作ったん飲もー」
汁椀を手に取り、ズッ、と汁を啜ると、ほぅ、と息をついた。
「あー、温まるわぁ。上手にできたやない」
はんぺんをもそもそ食いながら、そんな風に言って笑う。
「お前の教え方がいいんだろ」
恵方巻を丸々一本たいらげて、オレも汁椀に手を伸ばし、中の具ごとズズッと啜り込んだ。
「うまい」
(もしまた頼まれたら──その時はまた作ってもいいかもな)
そんな風に思いながら、オレは早々に二本目の恵方巻に手を伸ばした──。
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