六品目:ブランデーホットココア/喜多里黎斗

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 俺も片付けはできないほうだけど、天華ちゃんはできないの域を超えてると思うんだよねー。小物の失くし物もしょっちゅうだし、バッグの中が整ってるのなんて見たことないし?  アヤがせっかく「バッグのポケットにつけてね」ってキークリップをプレゼントしてくれたのはどうしたんだっつーの。「ちょっと黎斗ー!」なんて声が聞こえてくるけど、開けた人間から入るのが普通でしょー。  あとで鍵探しの手伝いをさせられるんだってところは、ひとまず置いておく。 「おかえり。ふたりとも一緒だったの?」  部屋に荷物と着ていたジャケット類を置いてリビングに行くと、カウンターキッチンから声をかけてきたのは双子の兄(アヤ)だった。  赤いセルフレームの眼鏡の向こうの瞳が、柔らかくさがる。 「下で会った」 「そーなのよ。アヤちゃん、今日のご飯なーに?」  鍵探しは諦めたのか、お気に入りのアパレル・ソルベピケで買ったもこもこのルームウェアを着て登場した天華ちゃんが、カウンター越しにキッチンを覗き込む。 「今日は鮭ときのこのホイル焼きに粕汁。あとは白いご飯とぬか漬け。あ、湯豆腐もあるよ」  アヤが笑顔で夕飯メニューを教えてくれる。聞き終えるなり天華ちゃんが『パンッ』と両手を打ち鳴らした。 「やったー粕汁ぅ! そうと決まれば熱燗の用意しなきゃ!」  上機嫌で鼻歌を歌いながら、ご自慢の酒器セットを用意する天華ちゃんを見て、アヤが困ったような笑いを浮かべている。  誰の遺伝なのか、天華ちゃんはこの家イチの酒豪だ。  大学に入って合コンだコンパだ誘われることがある天華ちゃんだけど、あまりの酒の強さに一緒に飲みに行った男がドン引きしたとかなんとかって話があるくらい。  しかも何を飲んでもどんなに飲んでも絶対に二日酔いをしない、奇跡のような体質なんだからびっくりする。
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