六品目:ブランデーホットココア/喜多里黎斗

4/10

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
 それとは正反対なのがアヤだ。  ダイレクトに酒を使っているお菓子や料理は一口も食べられない。  酒粕も微妙なところらしいけど、うちで作る甘酒や粕汁はアルコールを飛ばしきってアヤでも食べられるように作ってるみたい。それでも食べる量はホントにちょこっとだけど。  そんな事情で、自分の飲むお酒の準備だけは、天華ちゃんが自分でするようにしている。  アヤの酒あたりを防ぐためなのと、どういうわけか、お酒に関することだけは、失敗しないでできるからだ。  酒が関わらないと、皿一枚まともに洗えない。ある意味すごい特技だと思う。 「始まったよ、天華ちゃんの悪い癖が」 「明日も一限から大学あるし、飲み過ぎないでくれるといいんだけどね」  天華ちゃんがルンルンで熱燗の準備をする様子を眺めながら、アヤはまだ困り顔で笑っている。  天華ちゃんの監督をアヤに任せ、俺は自分でご飯を食べる準備をする。膳は並べてあるからお茶だけ持ってくる。  やー、持つべきものは出来る(アヤ)だね。 「先食べるねー」 「待って待って! アタシも食べる! 熱燗ちゃんもできたし♡」  慌ただしく熱燗の徳利とお猪口を持った天華ちゃんが自分の席についた。日本酒のいい香りが鼻先をかすめる。  三人で食卓を囲む時は、酒の匂いから一番遠い場所──すなわち天華ちゃんの正面にアヤ、ふたりの間に入るように俺が座る。  一同に手を合わせていただきますをして食べ始めると、さっそく燗酒(かんざけ)をお猪口に注いだ天華ちゃんが一口に煽って「くぅ~!」と唸り、堪らないって顔をする。  この上なく幸せそうで微笑ましいと思う反面、これは男ウケしないなとも思う。  だって完全に飲み方が酒好きのソレだ。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加