六品目:ブランデーホットココア/喜多里黎斗

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「天華ちゃんさー、もう少し酒に弱く見せないと、オトコできないよ?」 「お酒とオトコなら、お酒とるわー。ていうか、男なら一升瓶くらい軽く空けてみせなさいってカンジ?」 「一升……は、飲み過ぎかな?」  ホイル焼きをつついていたアヤが困惑した表情で天華ちゃんを見た。  一升が約1.8リットルだから、2リットルのペットボトルよりちょっと少ない量の酒を飲みきれる男って話になると、そう簡単に見つからないとも思うわけで。うちの父さんだってそんなに飲んでるの見たことない。 「どっかにいないかなぁ? アタシと同じくらいお酒が飲めて、美味しいお料理を作ってくれる、素敵なオトコ」 「んふふ~」と笑いながらホイル焼きの鮭を一口大に切り取って口に運ぶ。  アヤの作る料理はなんでも美味しいから、ただでさえ美味しいお酒で上機嫌の天華ちゃんの顔がみるみる緩んでいく。  こうやって見てると、可愛らしいと思うんだけどねー……出るとこ出てるし、くびれもあるし。  けど、いかんせん酒好きなのがなぁ。 「美味しい料理って話はどこから出たのさ」 「美味しいお酒には美味しいお料理でしょ? やっぱり酒肴(しゅこう)には見合う美味しいモノがないとね~」  ダメだ……この思考を捨てない限り、天華ちゃんに彼氏ができる未来は想像できない。  鮭のホイル焼きをたいらげ、湯豆腐に手を伸ばしている天華ちゃんを横目でチラリと見やる。  幸せそうに湯豆腐を食べている姿を目の当たりにして、俺は心の中でひっそりと溜息をついた。
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