六品目:ブランデーホットココア/喜多里黎斗

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「あ、ねぇ! もういっこお願い聞いて♡」  キッチンに行こうとしたら後ろから呼び止められる。  俺は得も言われぬ顔をして立ち止まり、肩越しに振り返った。 「まだなにかー?」 「ヒーター消しちゃったからちょっと肌寒いのよ。なにか温かい飲み物淹れて?」 「お願い♡」──なんてつけ加えてくる天華ちゃんを一瞥して、電源の落ちたヒーターへ視線を移し、 「つけりゃいいじゃん、そしたらネイルも速く乾くんじゃなーい?」  と、ヒーターを指さしながら言えば、 「乾燥はお肌の大敵なのよー? スキンケアしてるならわかるでしょ?」  と、もっともらしい答えが返ってくる。 「…………」  俺はまんまと口を(つぐ)んだ。  姉と書いて傍若無人と読むのは、天華ちゃんみたいな人のことを言うんだよな。 「温かいならなんでもいいわよ~? もちろん、お酒も大歓迎♡」  言いながらニッコリ笑う。  まったくこの姉は……。  つまり、夕飯に飲んだ分じゃ足りなかったってことだ。  結局夕飯を食べきるまでに追加で熱燗二本分もつけたくせに。 「甘くてもいいの?」 「ぜんぜんいいわよぉ~。甘いモノならゆっくり寝られそうだしピッタリね!」  俺が淹れるとわかるとカラカラと笑いながら拍手をする。  なにさ、その拍手は……。  キッチンに行き、アヤがお菓子を作る時に使っている調理器具や材料をストックしてある棚の戸を開ける。  そこから取り出したのはココアの入った缶だ。砂糖やミルクやが入っていない、ココアパウダーだけのもの。
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