六品目:ブランデーホットココア/喜多里黎斗

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「はい、できたよー。ブランデーホットココア」 「ありがとー♡ やっぱり持つべきものは、デキる弟ねー♡」  ソファーでマニキュアが乾くのを待っていた天華ちゃんにマグカップを差し出すと、ブランデーという一言に満面の笑みを浮かべて上機嫌でそれを受け取った。  相変わらず現金な姉だ……。 「ハイハイ、そりゃどーも。いいよねー、学生なのに二十歳(ハタチ)ならお酒飲めんだから。あーあ、俺も早く酒のみたーい」  ソファーの肘掛けに腰掛けて、とろけたマシュマロをもそもそ食べながら呟けば、天華ちゃんがひとくちココアを(すす)って、ふっ、と小さく笑う。 「なぁにさ?」 「アンタいまいくつだっけ? 高1だから16? あと4年じゃない。4年なんてね、あっという間よ」  そう言って笑う天華ちゃん。  あっという間っつってもねー、それが案外長かったりすんじゃないの? 「アヤちゃんはお酒ダメだし、アンタがお酒飲めるようになったら、アタシが仕込んであげる。そしたら、一緒に飲めるじゃない? その時が楽しみだなぁー」  待ち遠しくて仕方ないみたいな風に笑いながら、天華ちゃんはひと口、またひと口とココアを飲む。  言うねぇ……4年後って、それまで〝自分と同じくらいお酒が飲めて美味しい料理を作れる素敵なオトコ〟とは出会わない気なんだろうか?  まぁ、出会いなんていつどこであるかわからないもんだけどさ。  それがあってもなくても、きっと俺は酒飲みに育てられるんだろう、なんて悟ってしまった。  だって天華ちゃんは、俺の姉なんだから。姉の言うことは〝絶対〟なのだ。 「……覚悟しときまーす」  すっかり溶けたマシュマロをココアと一緒に啜り込みながら、俺はいつか訪れる未来を想像して、思わず溜息をついたのだった──。
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