七品目:菜の花のツナ和え/姫乃井泰正

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「次は……食べやすい大きさに切る。あ、2、3センチ幅が理想って書いてありますね。……このくらいかな?」  尚斗は食事の時に大口を開けず少しずつ食べることが多いから、3センチ幅より2センチ幅の方が口に運びやすいだろう。(かさ)の減った菜の花を2センチ幅に切り分けて、一旦小鉢に移しておく。 「あぁ、そうだ。ツナ缶を出さないと」  乾物が仕舞ってある隣の棚を開けると、一番手前にツナ缶が置いてあるのが目に入った。  スーパーの特売日に4缶入りで260円だったもの──すでに2缶使っているので残った2缶のうち1缶を取り、棚の扉を閉めると台所に戻る。 「大きめのボウルに油もしくは水分を切ったツナをあけ、調味料を加えてよく混ぜ合わせる」  昔は缶切りで開けなければならなかった缶詰も、いまはどんどん開け易く改良されていて、プルトップ式のものばかりになっている。 『パカッ』──プルタブをおこして持ち上げるとゆっくりと捲れていき、肌色のツナが顔を覗かせた。  歳のせいか、油っこすぎるものは控えるようになってしまったから、このツナ缶もノンオイルタイプのものだけど、尚斗には少し物足りないかな。  食に対して好みを伝えてくることが少ないから、僕の裁量で選んでしまっているけれど、今度買う時は聞いてみてもいいかもしれない。  そんなことを考えつつ、ツナ缶の水分をしっかり切ってから用意したボウルに中身をすべてあけ、書かれている調味料を順番に加えていく。    ツナに調味料をよく絡ませて、と。 「最後に切った菜の花を加えて和え、器に盛り付けて完成です……ちょうどいいサイズの器、あったかな?」  食器棚から小鉢を二つ取り出してテーブルに並べ、しっかりと和えた菜の花を順々に盛り付けた。 「うん、いい色合いですね。しっとりとしたサラダ感覚で食べられそうじゃないか」  そういえば味見をしていなかった。  ボウルに残った菜の花を菜箸で摘んで、てのひらに乗せてひと口。 「ふむ、菜の花の青臭さもないし歯応えもいい。ツナとマヨネーズが苦味をしっかり緩和していて食べやすいですね」  おひたしや辛子和え以外に、こんな食べ方があったとは驚きだ。ツナがノンオイルな分、マヨネーズを使っていてもあっさりしている。鶏ガラスープの素が旨味と塩気をしっかり出しているし、ご飯と合わせてもきっと美味しいだろう。 『ガララッ』──玄関扉が開く音がして、 「ただいまー」  そんな声が聞こえてくる。
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