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小鉢とボウルにラップをかけてから玄関へ行くと、ちょうど帰宅した尚斗が通学用の靴を脱いで玄関に上がったところに出くわした。
「おかえり」
「そっか、今日勤務明けだったっけ。じいちゃんもおかえり」
尚斗がゆったり呟くように言う。
「あぁ、ただいま。いまちょうど夕飯の準備をしていたんだ」
「そうなの? なんか手伝うことあったら……」
肩にかけていた通学用カバンをおろしながら言うから、「いやいや」と首を振る。
「いや、もうあらかた済んでね。あとはメインだけなんだ」
「今日の夕飯なに?」
「焼き鮭と豆腐とわかめのお味噌汁、白菜の浅漬と」
「と?」
「菜の花のツナ和えだよ」
菜の花、と聞いた瞬間、ほんの一瞬だけ尚斗の眉間にシワが寄る。
これは昔のことが頭をよぎっているな?
「今日のはね、大丈夫だよ。全然青臭くないし苦くないし、とてもおいしいんだ。八百心の女将さんが考えたレシピらしくてね」
孫のこういう顔を見ると、つい「心配ないよ」と甘い顔をしたくなってしまう。困ったように笑えば、
「……そうなんだ。じゃあ、少し食べてみる」
尚斗がゆっくり頷いた。
とろりと下がった目元が、まだどことなく杞憂の色を浮かべている。
「そうしてくれると嬉しいな」
もうすっかり大きくなったというのに、たったひとりの忘れ形見だからか、ヨシヨシと頭を撫でる癖が抜けない。
ほんのひと昔前は──何も言われずに跳ね除けられることもあったけれど、いまはそんな些細な反抗期も落ち着いたのか、短い時間なら大人しく撫でさせてくれる。それが、堪らなく嬉しい。
「……課題終わらせてくる」
トトト、と足音をさせながら離れの自室に向かう彼の背中を見送る。
その背中が、今までよりずっとずっと、たくましくなっていることに気がついた。
子供の成長は本当に早い。
まだそばで見ていたいと思う反面、いつかは巣立っていくのか──そんな風に思ってしまう。
そう思える分だけ……歳を重ねてきたということなのか。
背を反らせ、腕を伸ばし体の凝りをほぐす。
「夕飯の支度も済んだし、なおが課題終わらせるまで、僕はひと眠りでもしようかなぁ……」
そう呟いて自室に向かい、歩き出す。
ふたりで囲む夕飯を心待ちにしながら──。
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