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二品目:お揚げの甘煮/田原昭彦
『カチカチ、タタタ』──ゲームのコントローラーを操作する音がリビングで響いている。
小学校三年生の時に初めて家庭用のゲーム機を買ってもらった。
理由は、夏休みの宿題でやった読書感想文がとても良く書けていて、担任の薦めで作文コンクールに出したら奨励賞をもらったからだ。
元々機械好きの父親が「いつかゲーム機を買ってやるからな」と言っていたのが、思ったより早いタイミングで実現したようなものだったから、まさに〝棚からぼた餅〟と言っていい。
それとほぼ同じタイミングで、幼馴染の長濱亮平からも、「家庭用ゲーム機を購入したから一緒に遊ぼう!」と誘いかけられた。
そんなわけで、9歳の頃からどちらかの家で対戦ゲームまたはゲーム内協力プレイをするという習慣が身についた。
ゲーム機の種類が変わっても、遊ぶソフトが変わってもそれは相変わらず。7年間変わらない、いつもと同じいつもの風景だ。
もっとも、両家の両親共に仲が良く、家が隣同士で生まれた時から兄弟同然に育ってきたから、ゲームなんて理由がなくても、亮平やオレが互いの家に入り浸ることにはなっていただろうけど。
テレビの前でコントローラーを操作し、標的のモンスターを探してフィールドを駆け回っているキャラクターを突然立ち止まらせた亮平が、ポーズボタンを押してゲームを一時停止にする。
コントローラーから両手を離し、大きく突き上げるようにしながら「うぅ──ん」と声を上げた。
「アキぃ、おなかすいたぁ──」
「お腹空いたって──、あー、もうじき昼か」
前に尚斗が勧めてくれた、繁桝花宗著のベストセラー小説から、視線を自分が座るソファーの前に置かれたローテーブルの上に置いていたスマホに移す。デジタル時計は11時55分を指していた。
休日にゲームをやると言う話になると、亮平は朝ご飯を食べずに我が家にやってくる。その代わり、毎回お気に入りのチョコ菓子を一箱持参するのがお決まりになっていて、昼ご飯まではそれと飲み物だけで過ごす事が多い。
これに関しては亮平の母親が散々文句を言っているのだが、「牛乳飲むから栄養は摂れてる!」なんて返す始末で、「アキ君からもなんとか言ってやってちょうだい」とオレまで言われる始末だ。
まったく、高1にもなってなにを言わせてるんだか。
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