二品目:お揚げの甘煮/田原昭彦

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「水にさらしてもいいんだけど、少し火が通ってた方が、お前は食べやすいだろ?」  亮平は辛いものが苦手だ。それこそ、ハンバーガーに入っているマスタードですら舌に乗ると嫌な顔をするくらいに苦手だ。  だからこうして、辛味が出る野菜は下処理をしておくんだ。    そうこうしてるうちにタイマーが『ピピピッ』とけたたましく鳴るから止める。コンロの火を消して蓋を開け、落し蓋とクッキングシートを外して、煮揚げの様子を見る。スプーンを出してきて煮汁をひとすくい。 「味見」  亮平の前にスプーンを差し出すと、『フーフー』なんて冷まし息をふきかけて一口にそれを啜り込んだ。 「うまい!」 「そうか」  グッドサインを出してくる亮平は満面の笑みだ。これであとは主食のうどんを茹でるだけになった。大きめの鍋に水を張り、コンロの火を点け蓋を閉める。蓋を閉めた方がお湯は早く沸く。  麺鉢を二つ食器棚から出してきて、ポットのお湯を注ぐ。 「前から思ってたんだけど、これってなんか意味あんの?」 「湯呑やカップなんかもそうだけど、こうやってあらかじめお湯を張って器を温めることで、料理をや飲み物を冷めにくくするんだよ。角亀製麺で並んでる時見たことないか? 麺鉢に麺を入れる前に冷水桶や湯桶にジャバッて浸けてるだろ?」 「あー! アレね! 見たことあるわ! なるほど、ちゃんと考えてんだなぁ」  お湯を張った麺鉢をまじまじ見つめながら、亮平が納得したような声を上げる。  オレも祖母から理由を聞くまで気にしたこともなかったが、実践してみると温かい料理や飲物にどれだけ冷えが大敵なのかがわかるようになった。  最後まで温かい方が料理は断然美味(うま)いし、飲み物に至っては体を冷やすことも防げるから、寒い時期はこうやって器を温めるようになった。  勿論、自分ひとりだけなら手間をかけることもないけれど、一緒に食事をする相手がいる時くらいはやるようにしてる。 「そうだ、つゆのことを忘れてた」  冷蔵庫から二倍希釈のめんつゆを取り出し、別の小鍋を出してきてまたお湯を沸かす。めんつゆはパッケージ通りに作ればいいから楽だ。  沸いたお湯に規定量のめんつゆを入れると、ふわっと出汁の香りが漂う。
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