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今日は布団で寝るぞ、と宣言して2階に上る。
2人でシーツの端と端を持って折り込む。
俺は自分のベッドで寝て、晃士はその脇に布団を敷いて寝る。
変な話だが、並んで横になって明かりを落とすとほっとした。
晃士の顔をまともに見なくて済むからかもしれない、と思う。
「うちに泊りに来たことあったよね」
「…そうだっけ」
「それも、覚えてない?」
笑みを含んだ声が薄闇にこぼれる。すぐ近くで話しているみたいに耳元で。
「…ごめん」
「いいよ、もう」
「怒ってない?」
「うん」
晃士は夜、部屋を真っ暗にして寝ていると言っていた。俺は豆電球の明かりがないと、恥ずかしながら怖い。
その、晃士の家に泊まったというときはどうしていたんだろうか。
やっぱり今みたいに、微笑んで「いいよ」と言ってくれたのだろうか。
「何でこんなに覚えてないんだろ」
本当に記憶喪失なのかもしれないとさえ思う。
「ちっこい奴がいて…ってことは覚えてる」
「俺、ちびだったからね。中2でいきなりでかくなったの」
具体的な出来事は何ひとつ思い出せない。サッカーをしたとか虫採りとかプール、ありがちなエピソードさえ。
ただ晃士がそこに、俺のそばにいたことだけはよく覚えている。
部屋の中はしんとしている。天井のオレンジ色の電球を見つめる。
晃士も見ているかもしれない。
そう思ったらまた胸の変な感じが強くなって、俺は体ごと壁を向く。
「あけましておめでとう」
「へ?」
「まだ言ってなかったと思って」
そうだっけ。そうだったような気がする。
「…あけましておめでとうゴザイマス」
改めて言うと堅苦しい、新年の挨拶。
「今年もよろしく」
いいや、今年「は」、だろうか。去年はよろしくしていなかったのだから。
いやでも、昨日はまだ12月31日で「去年」だったし、と理屈っぽいことを考える。
「…いいの?」
「どっかで会うでしょ。こんだけ近くに住んでれば」
やけにひっそりと、晃士は「そう」と言う。
「じゃあ、今年もよろしく」
今度は明るくて軽い声だった。
もう機嫌は直ったのだな、と思いながら眠りに落ちる。
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