思い出したくない

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途中のコンビニで、晃士は例によってお菓子を買っていた。 「はー、肩痛え」 「部活、何日から?」 ガッコの課題もやんなきゃ、と言いながらチョコレートの小袋を開ける晃士。 ブランコに座るので、俺も同じようにする。腰を下ろしただけで鎖の軋む音が鳴る。 「運動すると甘いもん食べたくならない?」 「ならない。むしろよくそんなに食えるな」 炭酸飲料のフタを開ける。 グラウンドの向こう側には校舎が建っている。学校の校舎って、小学校でも高校でもほとんど変わらない。 「昨日会ったやつら、選手権見に行くって言ってた。友達の友達が出てるんだって」 ああ、神社にいた同級生。 まだ昨日の話なんだよな。もっとずっと以前のような気がする。いろんなことがありすぎて。 と言っても、自分の中で、だけど。 外から見たら、普通の年末年始だ。 そば作って食って、初詣行ってお雑煮作って食って、暇になったから外行く。 でもその「普通」の中に、幼なじみが不機嫌になったり、包丁でけがしたり、絆創膏を貼ってやったりってのは含まれていない。 もちろん、くっつき合って眠ったり夢をみたりってことも。 「…敦司?」 思い出したくない。 「なんでも、ない」 思い出したくないんだけど、抗えない。 欲しかったモノが、すぐそこにいて。 俺の中のちっちゃい頃の俺、が手を伸ばしそうになる。 気がつくと、さっきの子どもたちがブランコの柵の外でこちらをじっと見ている。 乗りたいらしい。ブランコはあと2つ空いているものの、横に高校生なんかが陣取っていたら使いづらいのだろう。 俺と晃士は立ち上がる。 小学生は、ありがとうございますと生真面目に言う。 晃士は、どういたしまして、と答えた。 「正式名称なんて言うんだろ、この、タイヤが半分埋まったやつ」 カラフルなペンキがほとんど剥げたタイヤの上を、晃士はひょいひょい渡る。 「俺たちが通ってた頃、もうあったよな」 昔とちっとも変わらない。昔もあって、これからもずっとあり続けるんじゃないかという変わらなさ。 「…で、うわのそらの理由は教えてくれないんだ」 ななめ後ろから、晃士の表情は見えない。 だって教えられるはずないじゃん。 夢の中で、俺がお前を欲しい欲しいってわめいてたーーーなんて。 そしてそれはお前の匂いと触り心地のせいだなんて。 晃士はタイヤを飛び移って、どんどん遠くに行く。 スマートフォンを取り出して、あ、と声を上げた。 「親、明日戻るって。挨拶がてら迎えに来るってさ」 明日。 うちの両親も明日、夕方までには帰って来るって言っていた。 この生活がいつまでも続くわけはない。 そんなことはわかりきっていた。 親も仕事だし、学校だってあと数日で始まる。 でも、唐突に断ち切られる感じがした。 寝て食ってごろごろして気が向いたら出かけて、っていう気ままなガキみたいで、嫌でも晃士が隣にいる生活が。 「帰ろっか」 タイヤを奥の列まで渡り切った晃士は振り返って、意図的に明るい声を出す。 たぶん俺が何も言わなかったから。
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