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「年越しそば作るから手伝え」
1人でもできるけれど、晃士の分まで作ってやるのはシャクだから声をかけた。
「いいけど俺、全然戦力にならないと思うよ」
嫌な顔はしないで立ち上がる。一応こいつなりに気を遣っているのだろうか。
母親からのメッセージを開いてみる。
麺を茹でるのは簡単だけど、かき揚げを作るって方が大変そうだ。
適当に自炊をしてみせておけば、1から10まで言われたとおりにしなくてもいいとは思いつつ、妙な意地も生まれてくる。
やってやるよ、と。
「俺材料切るからお湯わかして」
「…お湯?」
「麺を茹でるから」
野菜を冷蔵庫から取り出して、ふと見れば晃士は計量カップに水を注いでいる。
きちんと計る気か? 意外と律儀だな。
すると、そのカップを直にコンロに乗せようとする。
「えっ⁉」
驚いて大きな声が出てしまった。
「それをコンロにかけられるはずないだろ⁉」
あわてて晃士の手からひったくる。
「…そうなの?」
きょとんとした表情で俺を見る。
「プラスチックが溶けるだろ、そもそも水の量も、それじゃ全然足りないっつの!」
「でも、火じゃないじゃん」
「電気コンロだって、熱出てるだろうがよ」
ついつい言葉が乱暴になってしまう。
こいつ、もしかして馬鹿? いや、きっとよその家だから鍋のありかがわからなかっただけだ。
俺は自分を落ち着かせる。
同居人になる相手と、くだらないことで争ってもしかたない。
「…じゃ、こっちは俺がやるから、にんじんと玉ねぎ刻んで」
今度は道具も置いてやった。まな板と包丁。
晃士はやけにゆっくりと包丁とにんじんを手に取る。
そして、包丁の先端をにんじんの真ん中に突き刺す。
「…おいっ!」
せめてまな板に置けよ。いや、それ以前に洗って皮を剝いて欲しい。
「危ないだろ!」
俺だってとりたてて料理が上手いってわけじゃない。
でもこいつはひどい。
「お前…何ができるんだ?」
「だから言っただろ、俺は役に立たないって」
俺はにんじんから包丁を抜き取る。ピーラーを渡す。
「皮を剥くんだよ。上下に」
「へえー」
「あーもう、それじゃ指の皮が剥けるってば」
一事が万事この調子だった。
「いくらなんでもそれじゃ大き過ぎる」
「手で混ぜようとしてたのか? 菜箸で混ぜろ!」
30分で済むと思ったのが、2時間かかった。これなら1人でやった方が楽だった、と思いながらダイニングテーブルの前に座って突っ伏す。
「…油は、まじで気をつけろよ」
「もう1個、作っていい?」
「いいけど、作り過ぎじゃねえ?」
晃士は天ぷらが揚がるのが楽しいらしい。お玉に、衣を付けた具を乗せては油に浮かべている。
小首をかしげた後ろ姿。
身長は同じくらいみたいだ。
昔は、俺の方がだいぶデカかったのに。
男のきょうだいがいないせいか、家の中に同年代の男がいるのは不思議で、慣れない。
そういえば小さい頃はよく、兄弟が欲しいと親に訴えていた気がする。
そんな風に思うことも、今ではなくなったけれど。
「とにかく、食おうぜ」
何はともあれ、完成して良かった。
知ってるけど知らない奴と向かい合う大晦日。
俺はねぎを箸でよける。自分の分には乗せなければ良かった。
「…ねぎ、まだ苦手なんだ」
俺の手元を眺めて、つぶやく。
昔、晃士の前でそんなそぶりを見せたことがあったのだろうか。
子どもの頃どんな風で、どんな会話をしたかなんて覚えていない。
「食べれるけど、あんまり好きじゃないだけだよ」
つい、対抗心のようなものが芽生える。
本当は匂いがだめで、鼻先に持ってくるだけで吐きそうになるんだけど。
口に入れると、顔が歪む。
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