あけましておめでとうございます

1/5
前へ
/21ページ
次へ

あけましておめでとうございます

寝落ちした。 正確には、寝落ちして夜中に目覚めて、SNSを延々と眺めているうちに、明け方にまた寝落ちした。 で、今、元日の午前10時31分。天気は、窓の外を見るかぎり晴天。 「体、痛え…」 ソファの足元でうずくまる姿勢で寝ていたみたいだ。体を起こすと、肋骨と肩が痛い。 一瞬、知らない誰かがいると思ってびくりとする。 そうだった。幼なじみにして同居人。 晃士は、昨日来た時と同じ端っこの位置で、座ったまま膝を抱えて顎を乗せる姿勢で眠っていた。 目を閉じて、小動物めいている。 子どもの頃の面影は、やっぱりない気がする。 声はかけないでシャワーを浴びに出て行く。 昨夜は、テレビをつけっ放しにしながら、お菓子をつまんだり、互いに無言でスマートフォンを触ったりしていた。 晃士とはテレビ番組のことで話したりはしたけれど、そう会話が弾んだ記憶はない。 来客用の布団は親が俺の部屋に出して行ったはず。 布団で寝かせてやれば良かったかな。 母親にも叱られそうだ。晃ちゃんがかわいそうじゃない、とか何とか。 タオルで頭を拭きながらリビングに戻ると、晃士は起きていた。 目を開いていて、姿勢はさっきの体育座りのまま。 「おはよ。お前も風呂入る?」 「うん。はぶらしってある?」 「あー、無いかな。後で買いに行けばいいよ」 今日は何をすればいいんだっけ。 「棚のタオル使っていいから。風呂そっち」 正月独特のぼんやりとした空気のせいか、頭が回らない。 結局またフローリングに座り込む。 「洗濯、俺やっていいなら、やっちゃおうか」 しばらくしてから、晃士がドアからひょいと顔をのぞかせた。 そういえば、やるべきことは料理だけではない。 洗濯機って、人生で一度も使ったことがないかもしれない。 脱衣所の方へ行く。 「操作方法わかる?」 洗濯機の前で額を突き合わせると、シャンプーの匂いがした。 同じシャンプーを使っているから同じ匂いのはずだ。家族でもないのに。 「俺わかんないかも」 パネルにはおまかせ、わたし流、などと謎のような文字が並んでいる。 「たぶんわかる。俺、家で洗濯当番だから」 そういえば晃士は母親と2人暮らしなのだった。 料理はできないけれど他の家事は手伝っているらしい。 そしてまたリビングでぐだぐたすること数十分。 洗濯機から電子音が聞こえた。 「ベランダに干していい?」 「乾燥機ついてると思うけど」 「日に当てた方が気持ちいいよ。今日、晴れてるから」 そういうものだろうか。 反対する理由もないので、ランドリーバッグに洗い上がった服を詰め込んで2人して2階へ上る。 俺の部屋を通ってベランダに出る。 「休みの日の朝でも、親が黙って入って来るからウザいんだよ」 言いながら、すばやく確認する。 見られて恥ずかしいものは、少なくとも見える場所には置いていない、大丈夫。 晃士は俺の部屋に対して、特にコメントはしない。 男子高校生の部屋なんて、どこも同じようなものなのだろう。 「さむっ」 晴れてはいるが1月なのだから当然寒い。 晃士は昨日とはうって変わって、てきぱきと手を動かす。 「それはハンガーに掛けた方がいいよ」などと、俺に指示を出しさえする。 「お前、何もできないわけじゃないんだな」 「まあね」 「これからどうする? 今日」 「うちは毎年J神社に行ってる」 年越しそばの次は初詣でしょ、と言う。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加